水曜日は図書室で
 美久はびくっと震える。
 なにか落っこちたのだろうか。棚にあったものとか、積んであったものとかが。
 もしくは猫でも入りこんでいたのだろうか。
 でもそうでないことはすぐにわかる。
 がたがた、と音がして、それは近付いてきているようだったのだから。
 ひっと声が洩れた。まさか、誰かいるのだろうか。
 助けてもらえる可能性もあったけれど、こんな密室では恐ろしい。悪いひとである可能性もあるのだ。
 しかし。
 ああ、美久にとってこれは神様からの手助けともいえるようなことだった。
「あれ、綾織さん? こんなところでどうしたんだ?」
 奥から顔を見せたのは、快だった。なにかの道具を手にしている。

 久保田くん!?

 美久は幻覚を見ているのではないかと思った。
 不安と混乱のあまり、幻覚でも。
 でもどうやら幻覚ではなかったようなのだ。
「……どうしたの?」
 美久が床にへたり込んでいるのを見て、おかしな事態だと知ってくれたらしい。不思議そうな顔になった。
 そしてゆっくり近付いてきて、そっと美久の前にしゃがんだ。
「なにか、あったのか?」
 この時点で快は、この倉庫が閉じられ、鍵までかけられたということはわかっていなかったに違いない。なのでまだ余裕があったのかもしれないが、美久にそっと手を伸ばした。スカートの上で握っていた手に触れる。
 そのあたたかくてしっかりした感触。美久の体を震わせた。
 助かるわけではない。解決するわけではない。

 けれど、一人じゃない。

 胸にそれが迫って、じわっと染み込んで、それはしずくになった。
 ぼろぼろと涙がこぼれだす。
 あかりと対峙(たいじ)して、恐ろしくなったときも出なかったのに。
 突き飛ばされて閉じ込められたときも出なかったのに。
 安心と不安が混ざり合って、ぼろぼろと涙になってしまったのだ。
「大丈夫だ」
 快は泣きだした美久の手をぎゅっと握ってくれた。彼にはまだ理由も状況もわからないだろうに、美久を力づけるように。
「大丈夫だから。話してくれ」
 その手のあたたかさと優しい言葉に、美久の心があたたまってくる。
 恐ろしさや不安に凍り付いていた心が少しずつゆるんでいって。
 今度は違う意味で涙がこぼれたけれど、快に触れられていないほうの手で、ぐっとぬぐう。
 「うん」と、小さくうなずいた。
< 61 / 120 >

この作品をシェア

pagetop