水曜日は図書室で
 そしてこんなときなのに思い出してしまった。
 ここへ閉じ込められることになった発端の、あかりたちとのやりとりだ。

『きれいになれば久保田くんも振り向いてくれる、って期待してるわけ?』

 それで自分は詰まってしまったけど、と美久は思う。
 詰まってしまったのは、否定なんかできなかったから。
 すぐに否定できないほどには、自分の中に、快に対する気持ちがあること。
 皮肉だが、あれで思い知らされてしまった。

 自分は快のことが好き、なのかもしれない。

 再び思ってしまって、顔が熱くなった。
 こうして二人きりで密室になんている。
 それを意識してしまって、急に緊張してきてしまった。もう快と隣同士で座っても緊張などしなくなっていたというのに。状況が違いすぎる。
 美久の様子をおかしく思ったのか、快がちょっと顔を覗き込んできた。美久の心臓がどきりと跳ねる。
「どした? 具合でも悪いか?」
 また気づかわれてしまった。でもそれは誤解だ。
「うっ、ううん! ただ、どうしたらいいのかなって……」
 それも本当のことなのでそう言っておいた。快も眉をしかめて「うーん……」とうなる。
 でもいい考えなどあるものか。
 入り口と窓のほかに出られそうなところなどない。
 そして一番運の悪いことに、二人ともスマホをここへ持ってきていなかったのだ。
 美久は学校ではいつもそうするように電源を切って通学バッグにいれたままであったし、快は快で部活中にスマホを持ち歩くものか。同じく部室に置いてきてしまったと言っていた。
 つまり外との連絡手段はまったくない、ということだ。
「朝になれば用務員さんが仕事に来るって言ってたけど……」
 美久の言ったことは希望でもあり、絶望でもあった。
「そうか、じゃあずっと閉じ込められたままはない、ってことだな」
「そうだと……思う……」
「用務員さんが来るなら、戸締まりをしに、もしかしたら来るかもしれない。それか先生とかが見回りに来るか……」
 それは希望的観測であったけれど、ありえないことではない。快は、ぱっと立ち上がった。ポケットからなにかを出す。
 それはペンライトであった。
「奥は暗いから、探し物をするのに手間取るかと思って持ってきておいたんだ」
 そう言って、どうするのかと思えばもう一度窓のところへ行った。よっと、と同じように棚に足をかけて窓を掴む。
 美久はよくわからないままに見守るしかなかったのだけど、すぐに理解した。
 快はペンライトをつけて、窓の外に向くようにセットしたのだ。
 そして、よっと、とまた降りてきた。美久の隣へ戻る。
「こうすれば不自然に明かりが見えるかもしれない。そしたら、気付いてくれるひともいるかもしれない」
 確実ではなかったけれど、見つけてもらえる可能性が少しだけ上がった。美久も少しだけほっとする。
「かもしれない、ばっかで悪いけど、見つけてもらえるといいな」
 でも明かりが見えるということは、あたりが暗くなってしまうということだ。
 夜までここにいるのだろうか。
 いや、運が悪ければ一晩いることになるのだけど……。

 快と。
 一晩、二人きりになるというのか。

 違う意味でどきどきと心臓が騒ぎだした。
 そんな場合ではないというのに。
 今のところできることは終わってしまった気がする。
 ほっとしている場合ではないが、とりあえずあせっても仕方がない。二人ともマットの上で力を抜いた。
 そして座ったまま力を抜いてから気付く。ぶるっと体が震えた。
 寒い。
 日が落ちてきて、気温も下がったのだろう。一月の、暖房もない用具室だ。風は当たらないといっても、夜になれば冷えるだろう。
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