水曜日は図書室で
暗闇の告白
「ほんとにごめんな、あかりのやつが……」
 ぽつぽつと話すうちに、心底すまなそうな顔で謝ってくれた。まったく快のせいではないというのに。幼馴染みといっていたのだから、快も責任を感じてしまったのだろう。
「ううん、桐生さんも久保田くんのことを心配してるのはわかったから……」
 今、少し落ちついているからかあかりのことを悪く言う気にはならなかった。
 そりゃあ、こんな、ひとを用具室に閉じ込めてくるなんて良くないことだ。突き飛ばされたのもある。助け出されたら先生に言って、叱ってもらうことは当たり前だろう。
 でも、あかりの気持ちもわからないことはないから。
 好きなひとがほかの女の子と仲良くしている。そのおもしろくない気持ちというのは。
 実際、あかりが言っていたのもある。

『でも今の快は誰かと付き合ったりしてる余裕はないの』

 それは確かに、快を思いやっての言葉だろう。
 自分の叶わない片想いと、美久を邪魔にする気持ちを正当化する言葉だったのかもしれない。
 でもまったく根拠がなければ、こんな言葉、出るだろうか。
 だから引っかかっていたのだ。どうして余裕がないというのだろう。
 付き合う、というのは美久の気持ちをちょっと恥ずかしくしてしまったけれど。
 快への気持ちを自覚してしまった今では。
 だって、好きだということは、そのあとは付き合いたい、という思考になって当然だから。
「まぁ、それはあると思うけど……でも度が過ぎるから……」
 快は困ったように言った。快自身も『それはある』と言った。つまり、心配される要素があるということだ。
 だけど美久は困ってしまう。快に「どうして余裕がないの?」なんて聞けるものか。
 快にはなにか事情がある。それは前からいろいろな場面で感じていたけれど、自分が聞いていいことではないとも感じていた。だから今回も美久は聞かなかった。「そうだね」とだけ返事をする。
「それに綾織さんの言う通りだよ」
 ふと顔をあげて快は美久を見た。ずいぶん暗くなった用具室の中だけど、これだけ近いのだ、顔ははっきり見えた。
 快の瞳は美久をまっすぐに見つめていた。優しい色の瞳が、なぜか今はちょっと固いように見える。
「俺がどうするかは俺が決めることだ。いくら幼馴染みだとかいっても、余裕がないとか決めつけられるいわれはない」
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