水曜日は図書室で
ええと、奥の棚だったよね。このへんはあまりこなかったから……。
美久は心の中でつぶやきながら、棚を順番に覗いていった。
少し前に図書室では大規模な配置換えがあって、まだ全部覚えられていなかったのもある。
そのときは一週間ほど図書室が使えなくて、だいぶ不便で寂しい思いをしたものだ。
でもこれほど大規模移動だったのだから、もうしばらく配置換えはないだろう。そこは安心できるというわけ。
この本の一巻と二、三巻を借りたときと同じ場所だけど、まだ二回しか来ていないし図書室は広いのだ。私立だけあって、街の図書館と同じくらいはある。
よって、いくつか棚を覗いて、そのうち見つけた。
ああ、ここ、ここ。
ほっとして、また心の中で言っていた。
どうも心の中で独り言を言うくせがあるのだ、美久は。
ほかのひととあまり話をしないぶんだけ、心の中で言ってしまうのかもしれなかった。美久としては気にしていなかったけれど。
しかし、場所を見つけたはいいものの、どきっとしてしまった。そこにはひとがいたのだから。
おまけに男子生徒だった。それもどきっとした理由のひとつ。
男子はあまり得意ではなかった。引っ込み思案が加速してしまうから。
元々、普通の女子だって、男子と話すのは少し緊張してしまうだろう。美久のような大人しい子にとっては、余計にそうだった。
背の高いひとだった。ふわっとした茶色の髪をしている。赤チェックのズボンを穿いているから、多分、同じ二年生。
そして当たり前かもしれないが、棚に向き合って、本を手にしていた。
美久はそわそわ、どきどきしてしまう。
そこは自分も見たかったところだ。
でもどいて、なんて言えるわけがない。相手が男子である以上に、そんなお行儀の悪いこと。
だからいったん別のところへ行って、もう一回来ようと思ったのだけど。
美久の気配を感じたからかもしれない、彼がこちらを見た。別に誰か知り合いだと思ったのではなくて、単に「ひとがきた」と感じたからだろうけど。
美久はそのことに、さらにどきっとしてしまった。
男子からこんなまっすぐに見られることはそうそうない。
しかも彼は……ずいぶん整った顔立ちをしていたのだから。
目は一重ですっとしていて、涼し気に見える。
茶色の髪だって、ムースかなにかでセットしているのだろう。
ひとことで言うなら、イケメン、であった。
「なんか探してる?」
向こうも美久の制服を見て、同じ学年だと知ったのだろう。ラフな口調で話しかけてきた。
でも美久はすぐに答えられない。あまり男子と接したことがないのだ、慣れていない。
うん、とか、そうなの、とか言わないと。
思ったのに、口はなかなか動いてくれなかった。
彼がちょっと不思議そうな顔をする。でも、美久が緊張しているのはわかったらしい。
抱えた本をぎゅっと抱きしめていたからかもしれない。
安心させるように、ふわっと笑ってくれた。
「ごめんな、占領して。もう見つかったから交代するよ」
それだけ言って、一冊の本を手に、行ってしまった。
美久はほっとした。心の中で小さくため息をついてしまう。緊張がほどけたのだ。
でもすぐに罪悪感が胸に生まれる。
ちゃんと返事をするべきだったのに。まるで追い出すようにしてしまった。
こんなことじゃいけないのに。
思って、でも今から追いかけて「ごめんなさい」と言うほどのことでもないだろう。おまけにそんな勇気も出ない。
よって、美久は心の中だけで「ごめんなさい」を言い、彼の見ていたあたりの本棚へ近づいた。
美久のお目当ての小説。四巻は運よく棚にあった。五巻はないようだったけれど。
今日は四巻だけね。
心の中でまた言い、その四巻を手に取った。続きが気になっていたのだ、ぱらぱらとめくったけれど、すぐにやめた。
こんなところで立ち読みではなく、家かどこか、落ちつける場所でじっくり読みたい。
よって、もうほかのコーナーを見ようと思う。
その小説。抜けているのは五巻と、あと一巻だった。
美久のあとに誰かが借りていったらしい。
おもしろいもんね、これ。これ借りたひともきっと気に入るだろうなぁ。
そのくらいに思った。
そしてそのままその場を離れて、ゲットした四巻を借りる手続きをして、下校したのだった。
美久は心の中でつぶやきながら、棚を順番に覗いていった。
少し前に図書室では大規模な配置換えがあって、まだ全部覚えられていなかったのもある。
そのときは一週間ほど図書室が使えなくて、だいぶ不便で寂しい思いをしたものだ。
でもこれほど大規模移動だったのだから、もうしばらく配置換えはないだろう。そこは安心できるというわけ。
この本の一巻と二、三巻を借りたときと同じ場所だけど、まだ二回しか来ていないし図書室は広いのだ。私立だけあって、街の図書館と同じくらいはある。
よって、いくつか棚を覗いて、そのうち見つけた。
ああ、ここ、ここ。
ほっとして、また心の中で言っていた。
どうも心の中で独り言を言うくせがあるのだ、美久は。
ほかのひととあまり話をしないぶんだけ、心の中で言ってしまうのかもしれなかった。美久としては気にしていなかったけれど。
しかし、場所を見つけたはいいものの、どきっとしてしまった。そこにはひとがいたのだから。
おまけに男子生徒だった。それもどきっとした理由のひとつ。
男子はあまり得意ではなかった。引っ込み思案が加速してしまうから。
元々、普通の女子だって、男子と話すのは少し緊張してしまうだろう。美久のような大人しい子にとっては、余計にそうだった。
背の高いひとだった。ふわっとした茶色の髪をしている。赤チェックのズボンを穿いているから、多分、同じ二年生。
そして当たり前かもしれないが、棚に向き合って、本を手にしていた。
美久はそわそわ、どきどきしてしまう。
そこは自分も見たかったところだ。
でもどいて、なんて言えるわけがない。相手が男子である以上に、そんなお行儀の悪いこと。
だからいったん別のところへ行って、もう一回来ようと思ったのだけど。
美久の気配を感じたからかもしれない、彼がこちらを見た。別に誰か知り合いだと思ったのではなくて、単に「ひとがきた」と感じたからだろうけど。
美久はそのことに、さらにどきっとしてしまった。
男子からこんなまっすぐに見られることはそうそうない。
しかも彼は……ずいぶん整った顔立ちをしていたのだから。
目は一重ですっとしていて、涼し気に見える。
茶色の髪だって、ムースかなにかでセットしているのだろう。
ひとことで言うなら、イケメン、であった。
「なんか探してる?」
向こうも美久の制服を見て、同じ学年だと知ったのだろう。ラフな口調で話しかけてきた。
でも美久はすぐに答えられない。あまり男子と接したことがないのだ、慣れていない。
うん、とか、そうなの、とか言わないと。
思ったのに、口はなかなか動いてくれなかった。
彼がちょっと不思議そうな顔をする。でも、美久が緊張しているのはわかったらしい。
抱えた本をぎゅっと抱きしめていたからかもしれない。
安心させるように、ふわっと笑ってくれた。
「ごめんな、占領して。もう見つかったから交代するよ」
それだけ言って、一冊の本を手に、行ってしまった。
美久はほっとした。心の中で小さくため息をついてしまう。緊張がほどけたのだ。
でもすぐに罪悪感が胸に生まれる。
ちゃんと返事をするべきだったのに。まるで追い出すようにしてしまった。
こんなことじゃいけないのに。
思って、でも今から追いかけて「ごめんなさい」と言うほどのことでもないだろう。おまけにそんな勇気も出ない。
よって、美久は心の中だけで「ごめんなさい」を言い、彼の見ていたあたりの本棚へ近づいた。
美久のお目当ての小説。四巻は運よく棚にあった。五巻はないようだったけれど。
今日は四巻だけね。
心の中でまた言い、その四巻を手に取った。続きが気になっていたのだ、ぱらぱらとめくったけれど、すぐにやめた。
こんなところで立ち読みではなく、家かどこか、落ちつける場所でじっくり読みたい。
よって、もうほかのコーナーを見ようと思う。
その小説。抜けているのは五巻と、あと一巻だった。
美久のあとに誰かが借りていったらしい。
おもしろいもんね、これ。これ借りたひともきっと気に入るだろうなぁ。
そのくらいに思った。
そしてそのままその場を離れて、ゲットした四巻を借りる手続きをして、下校したのだった。