水曜日は図書室で
留依が選んだのは、留依の部屋だった。外でも良いと美久は言ったのだけど「誰がいるかわからないよ。聞かれると困るかもしれないでしょ」と留依が言ってくれたのだ。そういうところまで気を回してくれるのは留依のすごいところで、優しいところだと美久は思った。
そんなわけで留依の部屋にお邪魔して、話した。
起こったこと、全部だ。
「え、呼び出されたの? 桜木先生の呼び出しの場所を、嘘を言ってだまして?」
まずはそこからはじまった。留依はその時点ですでに「なんてひきょうなの」と怒ってくれたのだけど、美久がどう対応したのかということを話すと目を丸くした。
別に自慢したいわけではなく、話さなければ用具室に閉じ込められたことと話が繋がらなくなるからだったのだが。
「……へー……久保田くんのことについてねぇ……」
あかりが『快に近づかないで』と言ったこと。
『快は幼馴染だけど、今、余裕がないから誰かとは付き合えない』と言ったこと。
そしてそれに対して美久が『それは久保田くんが決めること』と言ったこと。
最後に、それが原因であかりが爆発して美久を用具室に閉じ込めたこと。
快がその中にいたのは偶然であること。
全部だ。
留依は時々相づちを入れながら聞いてくれた。
ひと段落したとき、感嘆したように言った。
「美久、強くなったねぇ」
美久はそんな場合ではないと思いつつも、その言葉に嬉しくなってしまう。
それは確かにその通りだと思うし、そういう行動を取れた自分のことはよくできた、と思うから。
あかりにおびえて「ごめんなさい、ごめんなさい」なんて言った末に閉じ込められてしまったのは違うのだ。
結局閉じ込められてしまったというが同じであろうとも、経緯がまったく違う。
「だって、言わなきゃって思ったから」
言ったけれど、留依は首を振った。
「こんなふうに言ってごめんだけど、前の美久だったら言えなかったことだと思う」
美久もそれには頷く。そのとおりだったから。
「そう、だと思う……でも、やっぱり言わないといけないと思ったの」
「それがすごいんだよ」
留依は不意に立ち上がった。距離を詰めてくる。
なにを、と思うと同時。腕を伸ばしてきた。そっと美久の肩に触れて、引き寄せてくれた。
ふわっと甘い香りが漂う。留依のつけている香水の香り。
オシャレな留依は毎日香水をつけていて、それはとてもいい香りがするのだった。ベリー系の甘い香り。これをこんなに近くで感じるのは二度目だった。
昨日、美久を見つけてくれたときも同じように抱きしめてくれて、そのときなのだけど、あのときは混乱しすぎていてはっきりとは覚えていない。
でも今ははっきりわかる。
自分がずいぶん落ちつけたことを、美久は自覚した。
「頑張ったね」
美久をぎゅっと抱きしめて、留依は言ってくれた。じわっと美久の胸に染み入って、まったく違う意味の涙をこぼさせた。
「……うん」
ここで「そんなことないよ」と言うのは違うだろう。よって、ためらったけれど、肯定した。
美久のその返事も、前向きになれた証拠。勇気を出すことができた証拠。
ぽろっとこぼれた涙だったけれど、もう泣かなくてもいいのだ。すぐに拭ってしまった。
それに一番重要な話が待っている。
美久は心を決めた。昨日の一番最後の、重要な出来事を話すと。
「あのね、それで、実はそれだけじゃなくて……」
留依は体を引いた。美久から離れて「なに?」と聞いてきた。すぐ前に座り直す。
そのように構えられてはためらってしまう、というか。恥ずかしくなってしまうのだけど。
美久はごくっとつばを飲んだ。どきどきと心臓が高鳴ってくるのを感じつつ。
「あのね、久保田くんに……好きだ、って、言われちゃった……」
そんなわけで留依の部屋にお邪魔して、話した。
起こったこと、全部だ。
「え、呼び出されたの? 桜木先生の呼び出しの場所を、嘘を言ってだまして?」
まずはそこからはじまった。留依はその時点ですでに「なんてひきょうなの」と怒ってくれたのだけど、美久がどう対応したのかということを話すと目を丸くした。
別に自慢したいわけではなく、話さなければ用具室に閉じ込められたことと話が繋がらなくなるからだったのだが。
「……へー……久保田くんのことについてねぇ……」
あかりが『快に近づかないで』と言ったこと。
『快は幼馴染だけど、今、余裕がないから誰かとは付き合えない』と言ったこと。
そしてそれに対して美久が『それは久保田くんが決めること』と言ったこと。
最後に、それが原因であかりが爆発して美久を用具室に閉じ込めたこと。
快がその中にいたのは偶然であること。
全部だ。
留依は時々相づちを入れながら聞いてくれた。
ひと段落したとき、感嘆したように言った。
「美久、強くなったねぇ」
美久はそんな場合ではないと思いつつも、その言葉に嬉しくなってしまう。
それは確かにその通りだと思うし、そういう行動を取れた自分のことはよくできた、と思うから。
あかりにおびえて「ごめんなさい、ごめんなさい」なんて言った末に閉じ込められてしまったのは違うのだ。
結局閉じ込められてしまったというが同じであろうとも、経緯がまったく違う。
「だって、言わなきゃって思ったから」
言ったけれど、留依は首を振った。
「こんなふうに言ってごめんだけど、前の美久だったら言えなかったことだと思う」
美久もそれには頷く。そのとおりだったから。
「そう、だと思う……でも、やっぱり言わないといけないと思ったの」
「それがすごいんだよ」
留依は不意に立ち上がった。距離を詰めてくる。
なにを、と思うと同時。腕を伸ばしてきた。そっと美久の肩に触れて、引き寄せてくれた。
ふわっと甘い香りが漂う。留依のつけている香水の香り。
オシャレな留依は毎日香水をつけていて、それはとてもいい香りがするのだった。ベリー系の甘い香り。これをこんなに近くで感じるのは二度目だった。
昨日、美久を見つけてくれたときも同じように抱きしめてくれて、そのときなのだけど、あのときは混乱しすぎていてはっきりとは覚えていない。
でも今ははっきりわかる。
自分がずいぶん落ちつけたことを、美久は自覚した。
「頑張ったね」
美久をぎゅっと抱きしめて、留依は言ってくれた。じわっと美久の胸に染み入って、まったく違う意味の涙をこぼさせた。
「……うん」
ここで「そんなことないよ」と言うのは違うだろう。よって、ためらったけれど、肯定した。
美久のその返事も、前向きになれた証拠。勇気を出すことができた証拠。
ぽろっとこぼれた涙だったけれど、もう泣かなくてもいいのだ。すぐに拭ってしまった。
それに一番重要な話が待っている。
美久は心を決めた。昨日の一番最後の、重要な出来事を話すと。
「あのね、それで、実はそれだけじゃなくて……」
留依は体を引いた。美久から離れて「なに?」と聞いてきた。すぐ前に座り直す。
そのように構えられてはためらってしまう、というか。恥ずかしくなってしまうのだけど。
美久はごくっとつばを飲んだ。どきどきと心臓が高鳴ってくるのを感じつつ。
「あのね、久保田くんに……好きだ、って、言われちゃった……」