水曜日は図書室で
 言ったことには目を丸くされた。思いもしなかった、という顔だ。
 当然だろう、美久だってまだ信じられない。
 快がそれなりに美久のことを良く思ってくれていたことは知っていた。そうでなければ週に一度、会いたいなんて言ってくれるものか。
 だけどまさか、そんな……そこまで強い想いを抱いてくれていたとは知らなかったのだ。
 昨日、あんなことになった状況でそれを伝えられて美久がおどろいてしまっても仕方がないだろう。
「……マジで」
 数秒のちに留依は言ってくれたけど、まだおどろきの声と表情のままだった。
 美久はこくりとうなずく。
「私もまだ信じられないんだけど……」
 信じられないというのは、快の気持ちがではない。こんな素晴らしいことが起こってしまったことに、だ。
「で、美久はなんて」
 なんと返事をしたのかと聞かれて、もっと恥ずかしくなった。これは返事がどうとかそういうこともあるけれど、情けない理由もあるからだ。混乱してちゃんと返事もできなかったという。
「あの……動揺しちゃって……答えられなかった……」
 情けない、と思いつつ言ったのだけど、留依は「そっかぁ」と言った。
「それはそうだよね、突然だったんでしょ」
 美久に優しい言葉をかけてくれて、ほっとしつつ美久は頷いた。自分の勇気が足りないだけではないと言ってくれたのだ。
 本当は言おうかどうか悩んでいるところへ留依が助けに来てくれてあの話は中断されたのだけど、それは言わないことにした。留依は助けてくれたのに、邪魔をしたと自分を責めてしまうだろう。優しい子だから。
「でも、ちゃんと返事……しないと」
 美久が言ったこと。留依の目がふっとゆるむ。
「そうだね」
 そのあと。もう一度手を伸ばしてくれた。そしてもう一度ぎゅっと抱きしめてくれた。
「大丈夫だよ。今の美久なら言えるよ」
 勇気づけるように抱きしめて、背中を叩いてくれる。そこから勇気がじわじわと湧いてくるような気がした。
 美久はそっと目を閉じた。

 大丈夫。
 勇気はもう自分の中にある。そしてそれを増幅して応援してくれる友達もいる。
 だから、大丈夫。

「うん。できる」
 言い切れたことは、まだ自分でも信じられないことだ。
 でももうわかっているから。
 ちゃんと言うことができる。
 返事だけではない。

 自分の気持ちを、だ。

 『Yes』の返事だけではなく、『自分も久保田くんが好き』という、一番大切で、伝えたいことを。
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