水曜日は図書室で
「そうだなぁ……こいつはまず首のあたりを狙うのがいいかな」
 うぃん、うぃん、とアームが動いて、茶色のクマの上で止まった。下へ降りていったアームはクマの首元を掴んだけれど、するっと抜けてしまった。
「ああ……落ちちゃったね」
 やっぱり難しいのだ。
 思った美久だったけれど、快はあっさりと次の百円玉を入れた。
「こういうのは一発で取るのは難しいんだ。さっきので、ちょっと前に寄っただろう」
「あ、うん、そうだね」
 確かにクマはアームに掴まれたときの衝撃でか、ちょっと前へかたむいていた。
「これをな、どんどん前に寄せていって……」
 ちゃりん、ちゃりん、と百円玉が四枚ほど入って。
「あっ、あっ、落ちる!」
 興奮してこぶしを握ってしまった美久。前ぎりぎりまで追い詰められたクマは、最後、アームでつつかれただけでぽろっと落ちてきた。
 とさっと小さく落ちる音が聞こえて、『ゲットおめでとう!』と機械から派手な音がする。
「すごい! 取れたね!」
「ああ。割と簡単だったろ」
 美久が夢中になったのはわかっただろう。腰をかがめて取り出し口からクマを取り出す快も嬉しそうだった。
 そして「はい」と美久に差し出してくれた。
 美久は「えっ」と思ってしまう。確かにゆるりクマを見止めたのは自分だけど、もらってしまうなんて。
「えっ、え……いい、の?」
 あわあわ言ったけれど、快は笑顔を変えない。ちょっとクマを振った。
「美久にやりたくて取ったんだぜ」
 どきっと美久の心臓が跳ねた。
 そんなこと、言われてしまうなんて。
 どきどきと心臓の鼓動が速まってくる。顔も赤くなってしまったかもしれない。
 でもそう言われてしまえば「いらない」なんて言えるわけがないし、言うつもりもなかった。
「あ、ありが……とう……」
 おずおずと手を出して、クマを受け取る。茶色のクマは、冬らしく、緑のケープをはおっていた。これはお店では見たことがない。『プライズ』というもの限定なのかもしれなかった。
「かわいがってくれたら嬉しいな」
 美久に受け取られて、快はにこにことしていた。そんな顔をされてしまえばもっとくすぐったい。
 でも、……嬉しい。
「う、うん! 大事にするね」
 きゅっとクマを握った。大切にしようと思う。
 チェーンなどはついていないから、家に飾ろうと思った。ベッドにでも置いたらいいだろう。
 もしかしたら快の夢が見られ……。
 思ってしまって、また頭の中が煮えてしまった美久であった。
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