水曜日は図書室で
「……わぁ、ヘアピン?」
それはシンプルなヘアピンだった。
金色の石がはまった小さな星がみっつ、並んでついている。
「すごく綺麗……ありがとう」
抱きしめたいほど嬉しい気持ちで美久は言った。
男の子からプレゼントなんて初めてだった。おまけにそれはただの『男の子』ではなく、もう『一番大切なひと』なのだ。極上の宝物のように思えてしまう。
「あの本、思い出したんだ」
快が言ったのは、魔法学校の本だった。主人公が魔法の杖を振ると現れるのは。
「あ! 金色の光」
光の魔法が溢れる。文字だけでもきらきらとして美しいだろうことが伝わってきたのだ。
「そう。あれみたいな綺麗な黄色だと思ったんだ」
美久の胸がもっと熱くなってしまう。改めて手の中のヘアピンを見つめた。
単純なことなのに。
ただ、色が同じというだけなのに。
でも二人の『想い出』を示しているものなのだ。
「あ、明日! つけてくね!」
これだけシンプルなら学校につけていってもいいだろう。よって美久は明るい声で言った。
「ああ。いっぱい使ってくれ」
快は微笑んでくれたのだけど。
そのあとのことに美久は違う意味で心臓が止まりそうになった。
ふわっと、やわらかな気配が自分の肩の横を通ったのだから。
快の腕。
伸ばされて、肩に触れられて、あっと思ったときには抱き寄せられていた。快のしっかりとした胸に体が触れる。
「……美久」
耳元で快の声がする。近すぎるせいで、ちょっとこもったようにも聞こえる声。
耳からぞくっとするようだった。そこから心が震わされていく。
「今日はありがとう」
腕に力を込めて、ぎゅっと美久を抱きしめて。
快は言ってくれた。やわらかな声。美久が大好きな声だ。
どくどくと心臓が騒ぐ。きっと顔も真っ赤になってしまっただろう。
でもなんとかくちびるを動かした。
「わ、わたし、こそ」
抱きしめられることだってまだ二回目なのだ。まだ緊張してしまう。
でも嫌なものではないどころか、とても幸せなものだということ。今はもっと強く感じた。
駅前なのだ、公共の場所だ。
ハグは一瞬で離されてしまった。けれど美久にとっては何十分も抱きしめられていたようにたっぷりとした一瞬だった。
「……また明日、な」
そう、また明日。学校で。
明日からの学校は『日常』だ。
けれどこうして『特別』な時間も過ごすことができる。
その両方がとても大切で、違う意味でスペシャルなひとときなのだと思った。
「うん、また明日、ね」
また明日ねと言える幸せを噛みしめつつ、改札のところで別れる。しっかり手を振って。
今日はとても楽しかった。幸せだった。
電車に乗って、自分の駅まで揺られていく美久。
肩からかけたバッグの中には、ケープをはおったゆるりクマと、星のヘアピンがしっかり入っていた。
それはシンプルなヘアピンだった。
金色の石がはまった小さな星がみっつ、並んでついている。
「すごく綺麗……ありがとう」
抱きしめたいほど嬉しい気持ちで美久は言った。
男の子からプレゼントなんて初めてだった。おまけにそれはただの『男の子』ではなく、もう『一番大切なひと』なのだ。極上の宝物のように思えてしまう。
「あの本、思い出したんだ」
快が言ったのは、魔法学校の本だった。主人公が魔法の杖を振ると現れるのは。
「あ! 金色の光」
光の魔法が溢れる。文字だけでもきらきらとして美しいだろうことが伝わってきたのだ。
「そう。あれみたいな綺麗な黄色だと思ったんだ」
美久の胸がもっと熱くなってしまう。改めて手の中のヘアピンを見つめた。
単純なことなのに。
ただ、色が同じというだけなのに。
でも二人の『想い出』を示しているものなのだ。
「あ、明日! つけてくね!」
これだけシンプルなら学校につけていってもいいだろう。よって美久は明るい声で言った。
「ああ。いっぱい使ってくれ」
快は微笑んでくれたのだけど。
そのあとのことに美久は違う意味で心臓が止まりそうになった。
ふわっと、やわらかな気配が自分の肩の横を通ったのだから。
快の腕。
伸ばされて、肩に触れられて、あっと思ったときには抱き寄せられていた。快のしっかりとした胸に体が触れる。
「……美久」
耳元で快の声がする。近すぎるせいで、ちょっとこもったようにも聞こえる声。
耳からぞくっとするようだった。そこから心が震わされていく。
「今日はありがとう」
腕に力を込めて、ぎゅっと美久を抱きしめて。
快は言ってくれた。やわらかな声。美久が大好きな声だ。
どくどくと心臓が騒ぐ。きっと顔も真っ赤になってしまっただろう。
でもなんとかくちびるを動かした。
「わ、わたし、こそ」
抱きしめられることだってまだ二回目なのだ。まだ緊張してしまう。
でも嫌なものではないどころか、とても幸せなものだということ。今はもっと強く感じた。
駅前なのだ、公共の場所だ。
ハグは一瞬で離されてしまった。けれど美久にとっては何十分も抱きしめられていたようにたっぷりとした一瞬だった。
「……また明日、な」
そう、また明日。学校で。
明日からの学校は『日常』だ。
けれどこうして『特別』な時間も過ごすことができる。
その両方がとても大切で、違う意味でスペシャルなひとときなのだと思った。
「うん、また明日、ね」
また明日ねと言える幸せを噛みしめつつ、改札のところで別れる。しっかり手を振って。
今日はとても楽しかった。幸せだった。
電車に乗って、自分の駅まで揺られていく美久。
肩からかけたバッグの中には、ケープをはおったゆるりクマと、星のヘアピンがしっかり入っていた。