水曜日は図書室で
怒鳴り声
 体育館への通路を渡って、体育館のある建物へ。ホールには何人かのひとがいた。運動部のひとたちだ。
 そこにはバスケ部のひとたちはいなかった。何人かのひとは顔くらい覚えていたのだけど。

 やっぱりいないのかなぁ、部活がある日じゃないし。

 美久は思ったけれど、体育館の重い扉を開けて、中を見た。
 やはりバスケ部は活動していない。バレー部が活動していた。

 じゃあ部室かな。
 部室でミーティングなんかが入ったのかも。

 思って、扉を閉めて運動部の部室が並ぶ棟へ向かった。体育館から繋がっているのですぐに入ることができた。
 両側にドアが並んでいる、運動部の部室。主に体育館で活動する部活の部室がここにあるのだ。
 男子バスケ部、女子バスケ部、そしてバレー部。体操部……といった具合だ。
 バスケ部は一番奥だ。廊下を進んでいった美久。そのうちバスケ部の部室のドアが見えた。
 ドアから明かりが洩れているのが見える。ひとがいそうだ。

 ああ、やっぱり急な部活が入ったのかも。
 快くんもいるかもしれないよね。

少し前に、『快くん』と呼び方が変わっていて、美久のクセである頭の中の独り言でもそう変わっていたのだけど、それはともかく。
「……」
「……!」
 バスケ部の部室のドアに近づくと、声も聞こえた。ドアが少し空いているかなにかで、声が洩れていたのだ。
 でもそれはなんだか穏やかではない声の大きさだった。廊下まで聞こえているくらいなのだ。
 おまけに漂ってくる空気でもわかる。なんだか険悪な感じ、が伝わってきて。
 美久は息を飲んでしまう。
 ここで「お邪魔します」とドアを叩くわけにはいかないだろう。今、部外者が入っていいところではない気がする。
 そしてそれはその通りだったようなのだ。
 思わず美久の足は止まってしまった。

 どうしよう。引き返したほうがいいのかな。
 快くんがいるみたいだから、終わったら連絡くれるかもしれない。
 スマホに『どうしたの?』って送ってるし。
 そうしたほうがいい。

 思ったのに、美久の足は動かなかった。ひやりと心の奥が冷たくなって。
 そこへ聞こえてきた。
「……だから、そういう気持ちなら、転部したらって……」
「そうだよ。……久保田の能力、もっと生かせるところ……あるだろ」
 男子の声だった。声だけで誰とわかるほど親しくないけれど、快の名前が出て、どきっとしてしまった。

 転部?

 穏やかでない話なのがそれではっきりわかってしまう。
 快がそこにいて、話題になっていることも。

 ……転部?
 どうしてそんな話……。

 美久の心臓がもっと、もっと、ゆっくり冷えていった。
 これは聞いてはいけないことかもしれない。いくらドアが開いているらしくて聞こえてしまっているだけとはいえ。
 引き返そう。それでどこかで待とう。
 美久が思って、一歩後ずさったときだった。

「お前らになにがわかるんだよ!?」

 大声がした。
 美久がびくりとしてしまうほどに、それははっきりと怒りの声だった。

 ……快の、声。
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