雪に咲く華
「双龍に取り入って情報を流してたんだろ?とんでもない女だな」
「弁えるべき分ってやつを教えてやる」
嬉々として手をぽきぽきと鳴らす彼ら。
やる気満々、って感じで抵抗するのは後が面倒そうだ。
ここは大人しくしているのが吉だろう。
潔く殴られて気が済むのを待とう、そう思ってふっと体の力を抜いたのに、やってくるはずの痛みを感じない。
代わりに聞きなれた、けれど何となく懐かしい声が耳に入った。
「お前ら、そこで何やってる」
声のする方に目を向けるとそこに見えたのは青ざめた顔の彼らと、
「...小早川くん」
些かの殺気をまとった颯だった。
「小早川、なんでお前がこの女庇うんだよ!双龍の裏切り者だろこいつ」
「...は?」
「双龍を、永和さんを騙してたんだ。止めんなよ!」
「仮にそれが事実だったとして、お前らに関りがあるか?」
「何言って、」
「これは”双龍“の問題だ。部外者が俺たちのことに口を出すな。頼んでないだろ」
今度こそ男たちは口をつぐんだ。
颯は彼らなど視界に入れていないかのように私に近づき、壊れ物を扱うかのように私の左頬に手を添える。
その表情はひどく苦しそうで、
「小早川くん、私に近づいちゃいけませんよ。あなたまで裏切り者にされますから」
咄嗟に踵を返そうとした私を引き止め、そっと自分のパーカーを被せてくれた。
「...保健室行って来い。風邪ひくぞ」
「...」
「それから名前と話し方、いつも通りでいい」
「でも」
「そうしてくれ」
「...わかった」
私が了承したのを聞き届けると一瞬だけ悲しそうな笑みを向けたのち、まだその場にいた男子たちをもう一睨みして去っていく。
関わらないで、という願いを真っ向から跳ね除けられてしまった。
どうして庇ってくれたんだろう。どうしてそんな悲しい顔をするんだろう。
私に背を向けた颯はなぜだか寂しそうに見えた。