冬の雨が上がる時

46．22歳の誕生祝い

3月20日は私の22歳の誕生日だ。期せずして今日は離婚が成立して100日目となり、私は再婚が可能となった。

そのお祝いと言うのはおかしいから誕生祝いということで、山内さんはいつものレストランへ食事に誘ってくれた。

「ここで誕生祝いをするのは18歳、19歳、20歳の時で、これが４回目になった。覚えているかい？」

「18歳のときは高校へ復学することが決まっていたし、19歳のときは調理師専門学校へ行くことが決まっていた。20歳の時はホテルへの就職が決まっていた。私の誕生日は人生の節目なんですね。そこまではすべて山内さんのお陰でした」

「今日も人生の節目の誕生日になった。再出発のね」

「去年の21歳の誕生日にも山内さんと一緒にここへ来たかった。そうしたら、あんなことにはなっていなかったかもしれない。来年も一緒に来たい。絶対に連れてきてくださいね」

「ああ、連れてくると約束しよう」

「山内さんは約束を必ず守ってくれる。昔からそうでした。安心していられます」

「今日はいつものようにディナーを頼んでおいた」

「ありがとう。本当にありがとう」

思い出をたどることは良いことかもしれない。その時の状況とその時の気持ちを客観的にみられる。

料理が運ばれて来た。ワインで乾杯をする。

私は料理をじっと見て、匂いを嗅いで、ソースを少しなめてみて、それから一口食べる。

それを山内さんはニコニコしながら眺めている。

楽しい食事だった。デザートに誕生祝いのケーキが運ばれて来た。

「ろうそくは22本ではなく、４本にしてもらった。なぜだかわかる？」

「分からない」

「『22才の別れ』という曲があって、ケーキに22本の蝋燭を灯す歌詞がある。悲しい別れの歌だから縁起を担いで22本はやめておいた。その代わり、ここでの誕生祝いの回数の4本にした。来年は５本灯そう」

「ありがとう」

私は喜んで蝋燭を吹き消した。本当に来年も二人でまた来たい。

帰りはここに来た時にいつもしていたように手を繋いで歩いてアパートまで帰った。

夜遅く雨が降ってきた。

一人布団の中で雨音を聞いていると、初めて山内さんのアパートへ来た日のことや失意のうちに戻ってきた日のことを思い出す。

でも今はこの雨音が心地よく聞こえて、心が落ち着く。

もうすっかり春になっているから、この雨はあの冬の雨よりもきっともう少し温かくなっているはずだ。

私も今は身も心も温かい。