八神くんのお気に入り
無力な自分
《 side-Sumire 》
美術室のドアを勢いよく開けると、部屋の中にいた部員が私を見た。
「あれ?菫じゃん。どーしたの?」
私は一目散に、立ち上がった愛菜(アイナ)の席に向かった。
丸メガネで栗色のショートヘアの愛菜。
去年までは黒髪だったから、ザ・オタクって感じの見た目だったけど、染めてからはそうじゃなくなった。
その愛菜によく部活の手伝いをお願いされていた。
「手伝いに来たの。何かある?」
そう言いながらカバンを下ろす私に、愛菜の表情がパッと明るくなった。
「ベタをお願いしたいの!」
渡された原稿用紙に“×”が何枚かついてる。
「オッケー。ペン借りるね」
返事を聞かずに愛菜の机に転がっていた黒ペンを取り、椅子に座った。