八神くんのお気に入り
上に引っ張られたものが無くなると、重力に従って、私はゆっくりと座り込んだ。
目の前であり得ない事が起きてる。
状況を理解するのに時間がかかった。
きっとそれは先輩も同じだっただろう。
沈黙を破った先輩の声が動揺していた。
「おま…バカじゃねぇの!?」
頭の上から聞こえた声に、私もそれが現実で起こっているとやっと理解したから。
「何自滅してんの?ウケる」
そう言って笑い出した先輩を原田はギロリと睨んだ。
まるで野獣のような瞳に、先輩の笑い声は小さくなっていく。
ポタポタと腕を伝って落ちていく血、水溜りとは言わないが、気付けば範囲が広がっていた。
赤く染まる床に心臓が変な音を立てていく。
途端、ガクッと膝をついた原田。
「原田っ…!」
それを見ると、心臓も、呼吸も、苦しくなる。