八神くんのお気に入り
「菫!」
突如聞こえた声に、振り返ろうとしても、重くなった体はいつもみたいに動けない。
ゆっくり振り返ると、莉子と八神がいた。
「り…こ…」
かすれた声は、きっと莉子の元まで届かなかったと思う。
それでも莉子は走って私のところに来た。
でも途中で止まってしまった莉子。
それはきっと、あの先輩達がいるから。
後を続くように歩いて来た八神が、莉子の肩をトンッと叩いた。
「ここで待ってて」
そう言うと、八神が私達に近付く。
「よぉ八神くん。あいつが勝手に自滅しただけだぜ?」
鼻につくような言い方に、八神が先輩を睨んだ。
「おいおい、俺等何もしてねーって」
両手を上げて無実を証明する先輩の胸ぐらを、八神はお構いなしに掴んだ。
「何もしてねぇ訳ないだろ?」