八神くんのお気に入り
騒がしかったのに今ではとても静かで、さっきの事が嘘のように思える。
でも、床に散乱したガラスの破片と、血溜まりを見ると、現実なんだって思い知らされて…。
私の肩にそっと添えられた手。
「菫…」
優しい莉子の声に、私は莉子の手を握った。
「りこぉ…」
何も出来なかった。
何も。
何も。
殴られる原田を助ける事も
病院について行く事も
何も出来なかった。
血だらけになる原田が怖くて、
どうしようも出来なくて、
ただただ見てるだけだった。
無力なんだって思い知らされた。
「死んじゃったらどうしよう…」
「大丈夫だよ、八神くんがついてるから」
私をなだめるように、莉子が優しく抱きしめてくれる。
ごめん。
ごめん。
ごめん。
助けられてなくて、ごめん。原田。
情けなくて、私は涙が止まらなかった。