八神くんのお気に入り
そんなことを思い出していると、八神が口を開いた。
「病院に行く時、あいつに原田を頼まれた」
「……」
「その時の顔は今にも泣き出しそうで…」
「……」
急に八神の言葉が止まった。
は?
俺は振り返り、背を向けたままの八神を見た。
「泣き出しそうで…何だよ?」
続きを促すように八神の言葉を繰り返した。
「俺にバレるのが嫌だったんだろうな…下を向いて我慢してんのが痛いほどわかった」
「…んで…何でだよ!」
起き上がった俺は、八神の背中に向かって、怒鳴ってしまった。
あいつがわかんねぇ。
俺を嫌ってんだろ!?
何でそこまでして俺を八神に頼んだ?
八神が来た時点で逃げたらよかっただろ?
何で、
そんな時まで泣くのを我慢してんだよ?
言葉に表せない感情に怒鳴る事しか出来ない。
くっそ!!
「何で泣きそうになってんだよ!」
「“自分は何も出来なかった”って」
八神の冷静沈着な声に、力が抜けるような感覚に落ち、俺は頭を下げた。