八神くんのお気に入り
まじ、
意味わかんねぇって。
暗闇の中であいつの声が聞こえた気がしたんだ。
何度も何度も俺の名前を呼んでいた。
もし、それが本当なら…
「ちょっと風に当たってくる」
「ん」
背を向けたまま返事をした八神。
ソファから降りた俺は玄関に向かい、わざとらしくバタンと音を立てて外に出た。
そろそろ梅雨が明ける。
頭を冷やすって程の気温ではないが、冷静になりたかった。
俺は涼しめそうな場所を探しながら、あてもなく歩く。
八神と話して、本当は答えが少し見えてた。
それを口にすると、負けた気がして嫌だった。
あいつはいつも我慢する。
小早川さんの時だってそうだった。
助けようとして、自分が犠牲になった。
今回だって、止めに入ってあいつは痛い思いをした。