八神くんのお気に入り
「最後に浴衣を着たのって小学生だったかしら?」
お母さんの話を聞きながら浴衣を羽織った。
「中学のときも着たよ」
1年生までだけど…
「莉子が浴衣を着たいって言ったときは驚いたわ」
「何で?」
「莉子も大人になったんだなぁって」
お母さんの言ってる意味がわからなくて、顔だけ後ろを向く。
「私だっておっきくなるよ」
「そうじゃなく、てっ…!!」
後ろでお母さんが腰紐を力強く引っ張った。
「うっ…」
急に締め付けられて、空気が抜けるかのように声が漏れる。
そんな私にお母さんは“我慢しなさい”って言った。
「オシャレして、恋する歳になったんだなぁって」
“恋する歳”って言われて、何故か八神くんの顔が浮かんできた。