八神くんのお気に入り
「また遊びに来いよ?その子も一緒に」
「はい」
歩き出した八神くんの背中を追いかける前に、髭の人にペコリと頭を下げて、八神くんを追いかけた。
「あっ…待って…」
八神くんを避けても私は避けてくれない。
私はどんどん人混みに流されていく。
手を伸ばしても、届かなくて…
「八神くんっ」
その声さえも雑音によって消される。
「待っ、て…」
八神くんの姿がどんどん見えなくなっていく。
やだっ…
八神くんっ…
思いっきり手を伸ばした。
ドンッ
「キャッ」
手を伸ばすのに必死で前を歩いてる人にぶつかってしまった私は、転けてしまった。
「姉ちゃん気をつけろよ」
そんな声が後ろで聞こえた。
顔を上げると、八神くんの姿が無くて…
視界が涙で揺れる。