八神くんのお気に入り
私は首を横に振った。
「八神くんが話してくれるまで…帰りたくない…」
はぁっとため息が聞こえた。
…そんなに迷惑なの…?
「あ、俺。ちょっと頼みがあるんだけど」
少し離れた場所から八神くんの声が聞こえた。
電話してるのかな…?
その声はどんどん小さくなっていき、顔を上げると八神くんの姿がなくなっていた。
嘘…
八神くん…帰ったの…?
「う…うぅ…」
八神くんのバカバカ!
どうしてこうなっちゃったの…?
八神くんの力になりたかっただけなのに…
八神くんがわからない…
「莉子!」
私の名前を叫んで、小走りに向かってくるのは菫だった。
「莉子、あんたどうしたの?」
「うぅ…」
「原田から電話があったの。“小早川さんがいるから迎えに行って”って」
その言葉を聞いて余計に涙が出てきた。