八神くんのお気に入り
「今まで気に入らなかったりしたら、すぐ変えてただろ」
…たしかに。
「葵さんだって結局どうなったんだよ?」
「……」
「小早川さんにこだわる理由でもあんの?」
莉子に…こだわる理由…。
今までの事を振り返るように、真っ暗な空を見上げた。
あの日、俺は葵を探していた。
いつまで経っても来る気配が無い葵に、嫌な予感がした。
『え!私を紹介してくれるの!?』
『ああ』
『嬉しい!私、楓の彼女になれるんだね!』
そう言って抱きついて来た葵は嬉しそうで、
俺も幸せだった。
刻々と迫る時間に、“まただ”と、虚しい感情が俺を襲った。
嫌な予感的中。
『大好きな楓の為だもん。早く行くから!』
何が“大好き”だ。
何が“早く行く”だ。
次第にその感情は苛立ちに変わり、俺は近くにあった机を蹴り飛ばしていた。