八神くんのお気に入り
『八神…』
『バカ、今は話しかけんな』
俺に話しかけてくる奴を原田が止めた時、ドアが開いた。
俺等の存在に気付いてないそいつは、必死に下を見続け、急に声を上げた。
『あった!!』
子供みたいに嬉しそうに飛び跳ねるそいつを見ると、今までのことがバカらしくなってきて、苛立ちも治ってきた。
そんな俺は、気付けば鼻で笑っていた。
それが莉子との出会いだった。
本当の事を言うと葵の変わりなんか誰でも良かった。
そこに莉子がいた。
ただそれだけだった。
半ば無茶振りな提案も受け入れてくれた莉子は、
すっげぇ怯えてたな。
俺自身の噂はよく聞く。
みんな俺と関わりたくないから、少しでも目が合うと怯える。
だから怯える莉子の事も気に留める事なんかなかったのに…。