八神くんのお気に入り
……いよいよだ。
前の席にいる菫の背中を見つめた。
頑張らなくちゃ……。
八神くんが葵さんをまだ好きだったとしても、あの時、過去を話してくれて私のことを好きって言ってくれた。
“言わなくても伝わったかな”じゃなくて……ちゃんと気持ち、伝えなきゃ……。
逃げてて、ずるい人間だった。
私は、両手を力強く握った。
よし。行ってこようっ!
大きく深呼吸をして私は5組に向かった。
大丈夫。
八神くんに好きって伝えるだけ。
大丈夫。
そう何度も心の中で繰り返し、落ち着かせていた。
5組に着くと、もう終わってたみたいで教室には数人しか残っていなかった。
教室を覗く私に、背後から原田くんに声をかけられた。
「八神なら昼からずっと戻ってないぞ」
「え……帰ったのかな?」