八神くんのお気に入り
無言のまま歩く八神くん。
夕日に照らされた廊下は、八神くんの銀色の髪を赤く染めた。
それでもキラキラと透けるような髪に目を奪われてしまう。
八神くんが向かった先は、私の教室だった。
ドアの前で立ち止まった八神くんは、私の腕を掴んだままで。
「八神くん……?」
背中に問いかけた。
「今更あいつが現れて、嫌いになる要素が無くなって……すっげぇ悩んだ」
独り言のようにポツリと呟いた八神くん。
「ごめん……嫌な思いしたよな……」
八神くんの大きな背中が悲しそうに見えて、私は後ろから抱きしめた。
たしかに
行かないで。
そばにいて。
って願ったけど、
「八神くんが私を選んでくれたから……もうそれでいい」
それで充分、嬉しいから。