八神くんのお気に入り
猛ダッシュで帰ったにも関わらず、私はHRに間に合わなかった。
空気を読んだ菫が
“小早川さんならお腹が痛いってトイレに行ってました”
って、言ってくれてたみたいなんだけど…トイレって…
「へぇ〜そんな事があったんだ」
教室で私の帰りを待っててくれた菫と、誰もいない教室を出た。
「帰ってこなかったから心配したよ」
私の前を歩いていた菫が急に振り返ったんだ。
「私、やっぱ八神にお礼言ってくる」
「へ!?」
走り出そうとする菫のカバンを掴んだ。
「八神くんなら掃除時間に帰ってたよ?」
「なーんだ。じゃあ、また明日にでも言うかなー」
そう言った菫は“じゃ、帰ろっか”って言って微笑んだ。
階段を降りるスピードが遅くなる菫。
「明日でこのクラスともお別れだねー」
「そうだね」
「私このクラス結構好きだったな」
菫のしんみりとした声に私は笑った。