追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました2
皇子の獣化を解かすのは――

 ノアール様が掴んだ渡り板が割れた瞬間、絶望で目の前が真っ黒に塗りつぶされた。一帯には、誰のものともわからぬ、宙を割くような悲鳴が反響していた。その中には、もしかしたら私の悲鳴も混じっていたかもしれないけれど、極限状態にあって自分の行動を認識する余力はなかった。深い絶望は目に映る光景のみならず、心までを真っ黒に染めていく。
 その時だった――。
 私の隣から、プリンスが大地を蹴って跳んだ。
 全ては瞬きよりも短い、ほんの一瞬の出来事だった。プリンスは、川に落下する直前のノアール様を間一髪で受け止めて対岸の壁に辿り着くと、そのまま岸上まで駆け上る。
 一連の救出シーンはまるで、奇跡のようだった。絶望が支配する暗闇を、プリンスが一瞬でまばゆい白に塗り替える。
 私は言葉をなくし、気高い彼の姿に見入った。
「邪魔をしやがって! 死なばもろともだ……っ!!」
 え?と思った時には、私は護衛官のひとりに、剛腕で首をグッと締め上げられていた。
 気道を圧迫される苦しさに、涙が滲んだ。
 白い光が、……プリンスが、向こう岸から私に向かって跳躍するのが、霞む視界に映った。
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