追放された悪役令嬢ですが、モフモフ付き!?スローライフはじめました2
 疑問は尽きないが、なにより最初の呼びかけが、そもそもからしておかしい! 何故、彼は私の名前を知っている!?
「では、私はこれで失礼します」
 困惑する私を尻目に、男性は颯爽とカフェと反対の方向に歩き出す。残された私はひとり、大混乱に陥っていた。
 ところが、数歩進んだところで男性がピタリと足を止めて振り返った。
「あぁ、そうだ。私は黒ちゃんではなく、クロフと言います。お客様からは、黒ちゃんで構わない。けれどアイリーン、あなたにはクロフと名前で呼んで欲しい。ではまた」
 ……え?
 まばゆい笑みで言い放つと、クロフと名乗った男性は黒髪をサラリと揺らしながら、通りの向こうに消えた。
 私は瞬きをするのも忘れて、愕然と立ち尽くした。
 ……うそでしょう? 『クロフ=黒ちゃん』とくれば、当然『クロフ=黒ちゃん=聖獣』となるわけで……。
 カーゴの前例で「獣化・人化」に多少の耐性がついているとはいえ、受けた衝撃は測り知れない。僅かにでも気を緩めれば、すぐにでも卒倒してしまいそうだ。
「なにより聖獣の血って、庶民には発現しないんじゃない……?」
 カラカラに乾いた唇で、小さく呟く。
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