かすみ草揺らぐ頃 続く物語 ~柚実16歳~
 慣れない正座で、少しよろけながら私は立つと、もう一度祐太を振り返って、口許だけで笑みをつくって、彼に送った。
「洋平くんは元気ですか」
 祐太の弟のことだ。しばらく会ってない。
 祐太と違って目が一重で涼しい顔をしていたことを覚えている。
 彼とは小学校以来会ってない。
「元気元気。陸上部で毎日走って、真っ黒よ」
 陸上部か。病弱な祐太とは真逆だ。
 祐太が高校生になっていたら、何部に入っていたんだろうな。
 またそんなことを憶ってしまい、私はあたまを左右に振った。
 もう、過去には囚われない。
 私は、前を向いて生きていく。
「じゃ、お父さんにもよろしくお伝えください」 私を見送ろうと、お母さんが先に部屋を出た。
 私はその隙を狙って、捧げたかすみ草を一輪取り、手持ちのトートバックに入れた。
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