かすみ草揺らぐ頃 続く物語 ~柚実16歳~
 私は冗談を飛ばしてみる。
「どうかな」
 否定されると思ったのに、拍子抜けした。
 こうしてここまで来てくれたし、私のことを厭がってはいないようだ。
 そこに、下りの電車が来たのか、どっとひとが溢れてきて、私と純の間にひとの波ができる。
 私は彼を見失わないように咄嗟に手をとった。
「こっち、避けよう」
 私は券売機の翳にふたりのスペースを作った。
 ふたり、向き合う形になる。
「あのね、今日、好きだったひとの誕生日だったの」
 純は一瞬黙る。そして口を開く。
「高野か」
「高野先生じゃない。小学生の頃の、好きだったひと」
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