かすみ草揺らぐ頃 続く物語 ~柚実16歳~
 「簡単じゃないよ。俺、今歌えないんだ。解散ライブから、一度もギターを触ってない」
 私のお気楽さに怒ったように、嘆くように、彼は言葉を搾り出す。
 店内のお客のお喋りの雑音の間に、フロアに流れ始めたのは軽快な英語の曲だ。
 純も流暢に英語の歌をこなしていた。
 もう、そんな彼の姿を見ることはできないのか。
 そう思うと、事の重大さに気がつく。
 純から音楽を取ったら、本当に何も残らない。
「ごめん。私、浅い考えで」
「いや、謝ることはない」
「とりあえず何か食べよう。こういう時ほど、お腹に何か入れなきゃ力出ないし、考え方も偏るよ。誕生日だし、私、驕るから」
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