婚約者は霧の怪異
自分の席に座る前に、教卓の上にある出席表を見に行った。
――みすと、みすと……これか。佐古 三栖斗(さこ みすと)。
昨日までそんな生徒このクラスに居なかった。なのになんで普通に名前があるのよ……!
「ひ、雛芽? 本当に大丈夫? 顔色悪いよ?」
「ははは……ありがとう怜音。大丈夫、切り替えてく」
「???」
自分の席へ向かう途中、頬杖をついて涼しい顔をしている男を一瞬睨みつける。
……今はこのくらいの小さな反抗にしておこう。これ以上は逆に私が周りから変に見られてしまう。
席についてしばらくすると担任の先生が教室に入ってきて、なんの問題もなく出欠確認がとられたのだった。
*****
授業間の休憩時間は、なんだかんだで移動や着替えがあったので私もあいつに話しかけることはなかったし、あっちも話しかけて来なかった。
動くとすればお互いーー昼休み。
あらかじめ、いつもお弁当を一緒に食べている怜音に、今日は昼休み用事があって一緒に食べられないことを伝えた。
もうすぐ4限目が終わる。後ろの席から斜め前のヤツの背中を見ているけど、真面目に授業を受けてるのが余計に何考えてるのかわからなくてコワイ。
艶のある黒髪に学校指定の深緑のブレザー。こうして後ろから見てると人間そのまんま。人間っぽくないのは、あの金色の瞳だけ。
……私の目も、ちゃんと茶色だったっけ。大丈夫よね。
キーンコーン……とチャイムが鳴り響いた。
慌てて教科書とノートを閉じ、ガチャガチャとペンを筆箱に突っ込む。
そしてお弁当の入った袋を握りしめて、先生が教室を出るのと同時に私も外へ飛び出した。
「橘さん走っちゃだめよ」
「はあい! すみません!」
ササササと階段を下り、弘則のクラスへ向かう。
ちょうどここも4限目を終えて、教室からわらわらと購買や中庭へ向かう生徒たちが出てくるところだった。
その中に、ぴょこんと寝癖のはねた見慣れた後頭部を見つける。
「弘の……高村くん!」
少し声を張って名前を呼ぶと、すぐに気付いて振り向いてくれた。
「雛ちゃん? どうしたのこんなところまで」
「今日いきなりうちのクラスにあいつが……“ミスト”が生徒としていたの。弘則の方は何もおかしなこと起きてない?」
「ええっ!?」
驚く弘則は、それだけ声をあげたきり、私の後ろを見て固まった。
ああ、くっそぉっ……! その視線の先に何がいるか予想がつくから嫌だ。
「雛芽、弘則クン。一緒にお昼ご飯食べないか?」
そう言って私の後ろにニコニコ笑顔で立っているのは、紛れもなく佐古 三栖斗だった。
――みすと、みすと……これか。佐古 三栖斗(さこ みすと)。
昨日までそんな生徒このクラスに居なかった。なのになんで普通に名前があるのよ……!
「ひ、雛芽? 本当に大丈夫? 顔色悪いよ?」
「ははは……ありがとう怜音。大丈夫、切り替えてく」
「???」
自分の席へ向かう途中、頬杖をついて涼しい顔をしている男を一瞬睨みつける。
……今はこのくらいの小さな反抗にしておこう。これ以上は逆に私が周りから変に見られてしまう。
席についてしばらくすると担任の先生が教室に入ってきて、なんの問題もなく出欠確認がとられたのだった。
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授業間の休憩時間は、なんだかんだで移動や着替えがあったので私もあいつに話しかけることはなかったし、あっちも話しかけて来なかった。
動くとすればお互いーー昼休み。
あらかじめ、いつもお弁当を一緒に食べている怜音に、今日は昼休み用事があって一緒に食べられないことを伝えた。
もうすぐ4限目が終わる。後ろの席から斜め前のヤツの背中を見ているけど、真面目に授業を受けてるのが余計に何考えてるのかわからなくてコワイ。
艶のある黒髪に学校指定の深緑のブレザー。こうして後ろから見てると人間そのまんま。人間っぽくないのは、あの金色の瞳だけ。
……私の目も、ちゃんと茶色だったっけ。大丈夫よね。
キーンコーン……とチャイムが鳴り響いた。
慌てて教科書とノートを閉じ、ガチャガチャとペンを筆箱に突っ込む。
そしてお弁当の入った袋を握りしめて、先生が教室を出るのと同時に私も外へ飛び出した。
「橘さん走っちゃだめよ」
「はあい! すみません!」
ササササと階段を下り、弘則のクラスへ向かう。
ちょうどここも4限目を終えて、教室からわらわらと購買や中庭へ向かう生徒たちが出てくるところだった。
その中に、ぴょこんと寝癖のはねた見慣れた後頭部を見つける。
「弘の……高村くん!」
少し声を張って名前を呼ぶと、すぐに気付いて振り向いてくれた。
「雛ちゃん? どうしたのこんなところまで」
「今日いきなりうちのクラスにあいつが……“ミスト”が生徒としていたの。弘則の方は何もおかしなこと起きてない?」
「ええっ!?」
驚く弘則は、それだけ声をあげたきり、私の後ろを見て固まった。
ああ、くっそぉっ……! その視線の先に何がいるか予想がつくから嫌だ。
「雛芽、弘則クン。一緒にお昼ご飯食べないか?」
そう言って私の後ろにニコニコ笑顔で立っているのは、紛れもなく佐古 三栖斗だった。