婚約者は霧の怪異
ホームルームが終わり、三栖斗から話しかけられる前に帰ってしまおうと荷物を持って飛び出すと、そこには弘則が立っていた。
「弘則?」
「あ、雛ちゃん。……今日はこのまま帰るの?」
「うん。あ、そういえば私入部届……出してなくて」
「それは、俺もなんだけど……」
少し弘則は沈黙する。
「銀河先輩って、結局何者だったんだろうって気になっちゃって。佐古先輩のこと、相談……とまではいかなくても、別の角度から何か訊けないかな」
「あー……」
教室の中を振り向き、確認する。三栖斗は女子何人かに捕まったようで、何か攻めにあってるみたいだった。いらない事言わないでよ……と念を込めて睨んでおく。
弘則の背中を軽く押して、私たちはとりあえずここを離れながら話を続けることにした。
「雛ちゃんは、銀河先輩のこと何者だと思う?」
「霊感みたいなのであいつと交流がある人間か、……もしかして妖怪側かってことよね」
「うん。僕は……違ったら失礼だけど、今日の佐古先輩の学校への溶け込み方を見てて、銀河先輩も同じことをしてるんじゃないかなって思った」
私も、どっちかというとそっちじゃないかなと思う。
でも。
「でも弘則。だったら私が自分で銀河先輩に訊くよ。私とあいつの縁の問題なんだし、弘則はやっぱりこういうの苦手でしょ?」
「……雛ちゃん」
弘則は難しい顔をして首を左右に振る。
部活棟はもう目の前だ。
「佐古先輩の話、俺は……本当だと思う。だとしたら、雛ちゃんは俺を助けたせいでこうなってる。……それがわかってて外野になるなんて絶対にできないし、雛ちゃんには人間のままでいてほしい」
ざあ……と枝葉の擦れる音が遠くから近づいてきて、風と共に私たちのところまでやってきた。
風がやむまで、私たちは真剣な顔で……視線だけで会話しているかのように見つめあっていた。
「……そうだね。私が弘則の立場だったら、同じ事を言ってると思う」
「でしょ。だから関わらせてよ雛ちゃん。それと……確認しておきたいんだけど」
「何?」
「雛ちゃんは佐古先輩と夫婦になるの、本当に嫌なの? もし、嫌じゃないのに俺が邪魔するみたいになったら、それは俺の望む事じゃないから」
「な、何言ってるの弘則!」
首をブンブンと振りながら私は弘則の肩を掴んで揺さぶる。
「したくないに決まってんじゃん! それに、もしそうなったら今みたいに一緒に遊んだりできなくなるかもしれないんだよ!?」
「わ、わ、わ、わかっ、た、からっ」
「あ、ごめん。つい」
ぱっと肩を放す。弘則が苦笑して大きく息を吐いた。
乱れた制服をもそもそと直して、それからいつもの笑顔を見せてくれる。
「うん。じゃあ、俺できる限りの事がんばるよ」
弘則を巻き込まないようにと思っていたけど、弘則もまた私を巻き込んだって思ってたんだなぁ。
こうして全てをわかってくれてる仲間は私にとってすごく心強い。
「じゃあ、行こう」
「うん」
互いに頷いて、部活棟へと2人で向かった。
「弘則?」
「あ、雛ちゃん。……今日はこのまま帰るの?」
「うん。あ、そういえば私入部届……出してなくて」
「それは、俺もなんだけど……」
少し弘則は沈黙する。
「銀河先輩って、結局何者だったんだろうって気になっちゃって。佐古先輩のこと、相談……とまではいかなくても、別の角度から何か訊けないかな」
「あー……」
教室の中を振り向き、確認する。三栖斗は女子何人かに捕まったようで、何か攻めにあってるみたいだった。いらない事言わないでよ……と念を込めて睨んでおく。
弘則の背中を軽く押して、私たちはとりあえずここを離れながら話を続けることにした。
「雛ちゃんは、銀河先輩のこと何者だと思う?」
「霊感みたいなのであいつと交流がある人間か、……もしかして妖怪側かってことよね」
「うん。僕は……違ったら失礼だけど、今日の佐古先輩の学校への溶け込み方を見てて、銀河先輩も同じことをしてるんじゃないかなって思った」
私も、どっちかというとそっちじゃないかなと思う。
でも。
「でも弘則。だったら私が自分で銀河先輩に訊くよ。私とあいつの縁の問題なんだし、弘則はやっぱりこういうの苦手でしょ?」
「……雛ちゃん」
弘則は難しい顔をして首を左右に振る。
部活棟はもう目の前だ。
「佐古先輩の話、俺は……本当だと思う。だとしたら、雛ちゃんは俺を助けたせいでこうなってる。……それがわかってて外野になるなんて絶対にできないし、雛ちゃんには人間のままでいてほしい」
ざあ……と枝葉の擦れる音が遠くから近づいてきて、風と共に私たちのところまでやってきた。
風がやむまで、私たちは真剣な顔で……視線だけで会話しているかのように見つめあっていた。
「……そうだね。私が弘則の立場だったら、同じ事を言ってると思う」
「でしょ。だから関わらせてよ雛ちゃん。それと……確認しておきたいんだけど」
「何?」
「雛ちゃんは佐古先輩と夫婦になるの、本当に嫌なの? もし、嫌じゃないのに俺が邪魔するみたいになったら、それは俺の望む事じゃないから」
「な、何言ってるの弘則!」
首をブンブンと振りながら私は弘則の肩を掴んで揺さぶる。
「したくないに決まってんじゃん! それに、もしそうなったら今みたいに一緒に遊んだりできなくなるかもしれないんだよ!?」
「わ、わ、わ、わかっ、た、からっ」
「あ、ごめん。つい」
ぱっと肩を放す。弘則が苦笑して大きく息を吐いた。
乱れた制服をもそもそと直して、それからいつもの笑顔を見せてくれる。
「うん。じゃあ、俺できる限りの事がんばるよ」
弘則を巻き込まないようにと思っていたけど、弘則もまた私を巻き込んだって思ってたんだなぁ。
こうして全てをわかってくれてる仲間は私にとってすごく心強い。
「じゃあ、行こう」
「うん」
互いに頷いて、部活棟へと2人で向かった。