婚約者は霧の怪異
アーケード街には家電量販店からドラッグストア、雑貨屋に服屋、カフェやその他の専門店が並び、天気予報の影響もあってか少し歩きにくそうなくらい沢山の人で溢れている。
その後はぶらぶらといろんな店をのぞいてみたり、ゲームセンターに入ってやった事もないダンスゲームをやってみた。2人とも全然かっこよくできなくて爆笑した。疲れたけど、全然嫌な疲れじゃなかった。
ゲームセンターから出てきた時、どうやら雨が降っていたらしく、雨粒を滴らせた傘を持っている人とすれ違うようになった。
「降ったり止んだりしてるみたいだね。合間を見て帰ろうか、雛ちゃん」
「うん、そうだね」
「止まなかったら駅まで傘入れてあげるから」
それはそれでなんかちょっと恥ずかしい気もするし、きっと弘則が濡れそうだからできればそうならないようにしたい。
お店を見ながら外の様子を見ると、弱い雨が降っているのが見えた。……このくらいだったら一人なら走って駅まで行ってるかも。今は弘則がそれを許さないだろうけど。どうせ「風邪引くでしょ!」なんてお母さんみたいなこと言って。
……そうして屋根のない路地の方を眺めていると、視界に入った和菓子屋さんの前で10歳くらいの女の子が俯いて泣いているのに気づいてしまう。
私が足を止め、女の子の親は近くにいないのか気になってじっと見ていると、それに弘則も気づいて少し進んだところから戻って来た。「ちょっといいかな」と弘則に確認をとると「うん」と頷いてくれたので2人で女の子の傍へ向かう。
「きみ、どうしたの? 迷子?」
女の子の目の前にかがんで問いかけると、目の周りを真っ赤に腫らしたその子は私を真ん丸な目で驚いたように見つめ、ぽろぽろとそのまま涙を流しながら首を振った。
「おつ、おつかい……です」
女の子の片手には、この和菓子屋さんの紙袋が提げられている。
「おつかいかぁ、えらいね。えっと……どうして泣いてるのかな?」
「…………傘が……」
女の子は、お店の前にある傘立てを涙をためた目で見た。そこには1本の傘もささっていない。
「そこの横に立ててたのに……出てきたらなくなっちゃってた、っです」
……ああ、誰かが持って行ったのか。
静かな怒りが込み上げてくる。
「おと、さんが……かしてくれた、だいじな傘なんで、すっ……おしごとで使うのにっ」
「泣かないで。えーっとどうしよう……とりあえずお姉ちゃんたちと一緒に、交番に届いてないか聞きに行こうか」
すぐ出てくるとはあまり思えないけど、できる限りのことはした方がいいよね。どこかに置き去りにされたものならいずれ連絡が入る可能性もあるし。
けれど、女の子はぷるぷると首を振る。
「交番は……」
「え?」
「…………えっと、えっと……住所が……わからない、です」
うーん、まいったな。どうしよう? と弘則を見上げると、彼は私の隣にしゃがみ込んで女の子にやさしく問いかけた。
「なくなったのはどんな傘かな?」
「おっきな……赤い傘、です」
「柄は?」
「ない……です」
「見ればわかるかな?」
女の子は頷いた。
「ダメもとだけど、近くの駅まで行ってみよう。もしかしたらそこに置いてあるかも。なかったら……もうわからないけど」
「うん」
「駅……なら、一人で行けます」
そう言う女の子に、弘則は微笑む。
「うん、でも今雨降ってるから。駅までお兄さんたちの傘に入って行かない?」
女の子は悩んだ末、私の方を見て「じゃあ、お願いします」と頭を下げた。
その後はぶらぶらといろんな店をのぞいてみたり、ゲームセンターに入ってやった事もないダンスゲームをやってみた。2人とも全然かっこよくできなくて爆笑した。疲れたけど、全然嫌な疲れじゃなかった。
ゲームセンターから出てきた時、どうやら雨が降っていたらしく、雨粒を滴らせた傘を持っている人とすれ違うようになった。
「降ったり止んだりしてるみたいだね。合間を見て帰ろうか、雛ちゃん」
「うん、そうだね」
「止まなかったら駅まで傘入れてあげるから」
それはそれでなんかちょっと恥ずかしい気もするし、きっと弘則が濡れそうだからできればそうならないようにしたい。
お店を見ながら外の様子を見ると、弱い雨が降っているのが見えた。……このくらいだったら一人なら走って駅まで行ってるかも。今は弘則がそれを許さないだろうけど。どうせ「風邪引くでしょ!」なんてお母さんみたいなこと言って。
……そうして屋根のない路地の方を眺めていると、視界に入った和菓子屋さんの前で10歳くらいの女の子が俯いて泣いているのに気づいてしまう。
私が足を止め、女の子の親は近くにいないのか気になってじっと見ていると、それに弘則も気づいて少し進んだところから戻って来た。「ちょっといいかな」と弘則に確認をとると「うん」と頷いてくれたので2人で女の子の傍へ向かう。
「きみ、どうしたの? 迷子?」
女の子の目の前にかがんで問いかけると、目の周りを真っ赤に腫らしたその子は私を真ん丸な目で驚いたように見つめ、ぽろぽろとそのまま涙を流しながら首を振った。
「おつ、おつかい……です」
女の子の片手には、この和菓子屋さんの紙袋が提げられている。
「おつかいかぁ、えらいね。えっと……どうして泣いてるのかな?」
「…………傘が……」
女の子は、お店の前にある傘立てを涙をためた目で見た。そこには1本の傘もささっていない。
「そこの横に立ててたのに……出てきたらなくなっちゃってた、っです」
……ああ、誰かが持って行ったのか。
静かな怒りが込み上げてくる。
「おと、さんが……かしてくれた、だいじな傘なんで、すっ……おしごとで使うのにっ」
「泣かないで。えーっとどうしよう……とりあえずお姉ちゃんたちと一緒に、交番に届いてないか聞きに行こうか」
すぐ出てくるとはあまり思えないけど、できる限りのことはした方がいいよね。どこかに置き去りにされたものならいずれ連絡が入る可能性もあるし。
けれど、女の子はぷるぷると首を振る。
「交番は……」
「え?」
「…………えっと、えっと……住所が……わからない、です」
うーん、まいったな。どうしよう? と弘則を見上げると、彼は私の隣にしゃがみ込んで女の子にやさしく問いかけた。
「なくなったのはどんな傘かな?」
「おっきな……赤い傘、です」
「柄は?」
「ない……です」
「見ればわかるかな?」
女の子は頷いた。
「ダメもとだけど、近くの駅まで行ってみよう。もしかしたらそこに置いてあるかも。なかったら……もうわからないけど」
「うん」
「駅……なら、一人で行けます」
そう言う女の子に、弘則は微笑む。
「うん、でも今雨降ってるから。駅までお兄さんたちの傘に入って行かない?」
女の子は悩んだ末、私の方を見て「じゃあ、お願いします」と頭を下げた。