婚約者は霧の怪異
時計が午後5時半を示し、そろそろ帰ろうかと片付けをして全員で部室を出る。施錠後、鍵は銀河先輩が持った。


「じゃあ私これを職員室まで持っていくから。ここで解散でいい?」

「いつもごめんね、銀河さん」

「いいのいいの」


 お疲れさまでしたー。と銀河先輩に挨拶をしてから昇降口へ向かっていく。

 三栖斗は、霧を出さないと出てこないあの部屋に帰らないといけないせいか「図書室に寄りたいから」と言って途中で別れた。

 5人で渡り廊下を歩いていると、小城さんがふと切り出した。


「あの~、この間言ってた七不思議の話なんですけど、他には何があるんですか?」


 ぴゃっ、と弘則が固まる。

 その様子すらも面白がりながら、継野先輩と羽野川くんは駐輪場で解散するまでの時間でどれから話そうかと迷っているみたいだった。


「図書室に関係するお話ってないんですか?」


 なんでピンポイントで図書室? と私が口に出す前に継野先輩が「あるよ」と即答する。

 弘則はいつの間にか少し距離を置いて歩き、鼻歌で恐怖を紛らわせていた。

 図書室は各学年の教室や特別教室のある“教室棟”にあるけれど、実は“旧校舎”にも昔図書室だった場所があるらしい。今も一応旧図書館と呼ばれ、本は置いてあるみたい。

 けれど今の図書室より小さく、出入り自由だけど利用する人もいない。置いてある本はほとんど傷んでいるし、とにかく古くてホコリをかぶっている。


「そこで居眠りをするとね、学校にいる夢を見るんだって。で、学校から出れば夢から覚めるんだけど、出られなかったらそれまでずっと目が覚めることはないってやつかな」


 へえ。出られない仕掛けでもあるのかな。

 小城さんを見ると、彼女は目を輝かせて話を聞いていた。……す、好きなんだなぁ。


 話が終わったところでちょうど駐輪場へたどり着き、駅へ歩いて向かう先輩や小城さんたちと解散してそれぞれ帰路についた。

 ああいう噂って誰が流すんだろ。……銀河先輩かな。







 翌朝、登校して教室へ向かう前になんとなくその図書室を見てみたくなって部活棟へ向かった。

 朝練終わりの生徒と何人かすれ違う。

 そうして突き当りまで進むと、そこが旧図書室。


 中に入ると、椅子に座って腕を組んだまま俯いている人影があった。三栖斗だ。

 他人の事言えないけど……何やってんのアイツ。
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