婚約者は霧の怪異
最後の2人がゴールし、1年生の番になった。
短く鳴ったホイッスルを合図に、選手たちが駆け出す。
弘則がくじ引きの所にたどり着いたのが、ちょうど真ん中くらいの順位。
何を引くんだろうとワクワクしながら見守っていると、お題の紙を見たまま立ち止まってしまった。
他の人はお題を見たらすぐ人探しに走って行くのに、なんだろう?
「あの子どうしたんだろう」
怜音も疑問に思ったらしい。
「うん。難しいお題だったのかな」
「あの子、雛芽の幼馴染だよね?」
「うん……」
ゴールで待機している審判の一人がマイクを持ったまま弘則に駆け寄り、紙を覗き込むと「あー」となんとも言えない声を出した。
「これは……どうしても居ないなら引き直していいですよ?」
「……いえ。……いい機会なので」
そう答える弘則の声がマイクに入った。
ざわざわ! 何を引いたんだと観客がざわめく。
弘則はまっすぐにうちのクラスを見据えて駆け足で近づいてくる。
そして――……
「佐古先輩。一緒に来てもらえますか」
メモを開いて見せる。
なんだなんだとクラス中が目を細めてメモを見た。
“〇〇のライバル”
「……おそらく、何のライバルか言うことになるぞ。引き直さなくていいのか」
三栖斗が腕を組んで余裕の表情でそう答える。
「……案外、短いですよね。卒業までって。このあたりで俺も変わらないと」
「……いいだろう」
ロープをまたいで、三栖斗が弘則の隣に並ぶ。
何がなんだかわからないまま、クラス全員は歓声を上げて大盛り上がり。
私だけは、漠然とした不安を拭えず黙って見送ってしまう。
「さあ! 次はスタートで出遅れた5組の選手が2年生を連れてゴール! さてさて気になるお題は!?」
審判がメモを覗き込み、大げさに声を張り上げる。
「ホニャララのライバル! おっとぉ!? これは!? 色々なパターンが考えられるぞ!」
弘則にマイクが向けられた。
遠目で、2人の雰囲気が険悪ではない事はわかる。っていうか険悪な仲だったら一緒にゴールに行かない。
「じゃあおたずねします。なんのライバルなんですか?」
「はい」
弘則の声は落ち着いていた。
「――……恋のライバルです」
キャーーーーーー!! とグラウンド中から悲鳴があがる。
へええ! 恋のライバル! あの2人いつの間に? 私全然知らなかっ……
「は……?」
何かがおかしいことに気づく。
怜音が私の腕をつかんでピョンピョンと跳ねながら揺さぶっている。
「きゃーーひなめええええええええ!!!」
あれ? つまりそれってどういう事だっけ……?
クラスメイトが私の方を見て叫んでいる。
あれ……そういえば……いつだったか、中庭での三栖斗との会話をみんな知って……え? あれ?
……弘則?
「え……っちょっとちょっとこれは――後続順位確認しといてね! ちょっと待ってちょっと待って! いいよォ! 2年の先輩、ライバルで間違いない? っていうかそれお互い認識してたの!?」
マイクが今度は三栖斗に向けられる。
「はい」
ワアア!! また全校生徒の歓声。
「でも彼とはライバルだけど大切な友人でもありますから」
「すげーーーーー!! ありがとう! 2人とも応援してますよ!」
審判がそう言って2人の背中を押し、ゴールの証として各クラスの得点を告げる。
弘則はそのままこっちはチラリとも見ず自分のクラスの友達に引っ張られてもみくちゃにされていた。
一方、三栖斗は涼しい顔をして歩いて帰って来る。そしてクラス待機スペースへのロープをまたぐ前に、立ち止まった。
「と、いうわけだ雛芽」
「やっぱり橘ァ!?」
「やべえ! 俺全然知らなかった! ていうか何あれ2人とも超かっけぇわ!」
その場の空気に耐えられず、私は逃げるように……いや、私はその場から逃げ出した。
短く鳴ったホイッスルを合図に、選手たちが駆け出す。
弘則がくじ引きの所にたどり着いたのが、ちょうど真ん中くらいの順位。
何を引くんだろうとワクワクしながら見守っていると、お題の紙を見たまま立ち止まってしまった。
他の人はお題を見たらすぐ人探しに走って行くのに、なんだろう?
「あの子どうしたんだろう」
怜音も疑問に思ったらしい。
「うん。難しいお題だったのかな」
「あの子、雛芽の幼馴染だよね?」
「うん……」
ゴールで待機している審判の一人がマイクを持ったまま弘則に駆け寄り、紙を覗き込むと「あー」となんとも言えない声を出した。
「これは……どうしても居ないなら引き直していいですよ?」
「……いえ。……いい機会なので」
そう答える弘則の声がマイクに入った。
ざわざわ! 何を引いたんだと観客がざわめく。
弘則はまっすぐにうちのクラスを見据えて駆け足で近づいてくる。
そして――……
「佐古先輩。一緒に来てもらえますか」
メモを開いて見せる。
なんだなんだとクラス中が目を細めてメモを見た。
“〇〇のライバル”
「……おそらく、何のライバルか言うことになるぞ。引き直さなくていいのか」
三栖斗が腕を組んで余裕の表情でそう答える。
「……案外、短いですよね。卒業までって。このあたりで俺も変わらないと」
「……いいだろう」
ロープをまたいで、三栖斗が弘則の隣に並ぶ。
何がなんだかわからないまま、クラス全員は歓声を上げて大盛り上がり。
私だけは、漠然とした不安を拭えず黙って見送ってしまう。
「さあ! 次はスタートで出遅れた5組の選手が2年生を連れてゴール! さてさて気になるお題は!?」
審判がメモを覗き込み、大げさに声を張り上げる。
「ホニャララのライバル! おっとぉ!? これは!? 色々なパターンが考えられるぞ!」
弘則にマイクが向けられた。
遠目で、2人の雰囲気が険悪ではない事はわかる。っていうか険悪な仲だったら一緒にゴールに行かない。
「じゃあおたずねします。なんのライバルなんですか?」
「はい」
弘則の声は落ち着いていた。
「――……恋のライバルです」
キャーーーーーー!! とグラウンド中から悲鳴があがる。
へええ! 恋のライバル! あの2人いつの間に? 私全然知らなかっ……
「は……?」
何かがおかしいことに気づく。
怜音が私の腕をつかんでピョンピョンと跳ねながら揺さぶっている。
「きゃーーひなめええええええええ!!!」
あれ? つまりそれってどういう事だっけ……?
クラスメイトが私の方を見て叫んでいる。
あれ……そういえば……いつだったか、中庭での三栖斗との会話をみんな知って……え? あれ?
……弘則?
「え……っちょっとちょっとこれは――後続順位確認しといてね! ちょっと待ってちょっと待って! いいよォ! 2年の先輩、ライバルで間違いない? っていうかそれお互い認識してたの!?」
マイクが今度は三栖斗に向けられる。
「はい」
ワアア!! また全校生徒の歓声。
「でも彼とはライバルだけど大切な友人でもありますから」
「すげーーーーー!! ありがとう! 2人とも応援してますよ!」
審判がそう言って2人の背中を押し、ゴールの証として各クラスの得点を告げる。
弘則はそのままこっちはチラリとも見ず自分のクラスの友達に引っ張られてもみくちゃにされていた。
一方、三栖斗は涼しい顔をして歩いて帰って来る。そしてクラス待機スペースへのロープをまたぐ前に、立ち止まった。
「と、いうわけだ雛芽」
「やっぱり橘ァ!?」
「やべえ! 俺全然知らなかった! ていうか何あれ2人とも超かっけぇわ!」
その場の空気に耐えられず、私は逃げるように……いや、私はその場から逃げ出した。