婚約者は霧の怪異
「……縁に影響するとか、そういう話じゃないの」
「もちろん多少は影響もするだろう。でも私にとって大事なのはそこじゃなかったのを思い出した」
「私・に・と・っ・て・は! そっちの方が大事なんです!」
はははは! 彼が愉快そうに笑った。
「いずれ、こんな時間が増えるのか。やはり、悪くない」
「っ! 調子に乗らないでよ!」
話を最初に戻そう、彼はそう言って私をまっすぐ見据える。
「好きでもないのに他の誰かと付き合ったらどうなるか、ペナルティはないと言ったが……縁そのものは作用しなくても、縁が見えている者たちは何をしているのかと君を見るだろう。君は、どこにどれだけの目があるかを知らないのが幸いなのか、それ故に例え話だろうとそんな面白い……ああいやいや、危ない橋を渡ろうなんて考えが浮かぶのか」
「面白いなんて思ってない」
「君が私を好きじゃなくても、バケモノ達はそんな事知らない。……今更だがな、弘則くんは私たちから見ると不利すぎる。君を救い出そうというなら、君をバケモノの群れの中から助け出さないと……それくらいの覚悟がないといけない」
「……それ、弘則に危険はないんだよね?」
私は彼の事を友人だと思っているよ、何度も繰り返すけどね。……彼はそう答えた。……答えになってない。
「周りのバケモノたちからちょっかいをかけられれば、友人としてやれることくらいはしよう。けれど、常に護るだとかそういうのは期待しないでほしい。銀河も同じく……そうだな、今日の体育祭に例えるなら彼女はただの観戦者であり審判であり、基本的に選手には触れない」
「私は……何かできることはないの?」
「はたから見て、思わせぶりに見える態度をとらないことだ。弘則クンに限って言えば、碧色の縁があるから仲のいい友達程度に遊ぶ分には全く問題ないだろう。つまり――今まで通り何も変わらなければいい」
即答だった。そしてそれは昼休みの時みたいな願望じゃなくて、本当に―……。
そんなの……弘則のためになるの? ……わからないよ。
私から見て、まるで弘則は人質だ。黙って力に屈しろと言われているようなものだ。
ようやく自分の立場を再認識する。基本、私は大人しくしているしかない。弘則を好きじゃないなら、なおさら。好きになるためにデートしてみようかな? とかそんな考えにすらリスクが付きまとう。
「君は自然でいればいい。さっきも言ったように、私の目の届く範囲なら彼の事を護れなくもない。なあ、雛芽……君の事は好きだが、この絶望的な状況の中で運命をひっくり返す――そんなものをもしも、彼が見せてくれるなら」
それは純粋に言葉通りで、煽っているわけでもなんでもなかった。
「そんなのを見せられたら、それはもう文句なしに私は負けたと言わざるを得ないだろ。そうなったら、私は納得するよ」
「……」
私は改めて、弘則にどう接するかという問いを自分に投げかける。
今、なんとも思ってないならできる事なんでないのだ。そう、さっきも自分で気づいたじゃないか。この状況、弘則は人質のようなものなんだって。
窓の外に、体育祭の片付けをする生徒が中庭を移動しているのが見え、ぼーっとしたままそれを眺めているともう一度「君は自然でいればいいんだ」と三栖斗が繰り返した。
「もちろん多少は影響もするだろう。でも私にとって大事なのはそこじゃなかったのを思い出した」
「私・に・と・っ・て・は! そっちの方が大事なんです!」
はははは! 彼が愉快そうに笑った。
「いずれ、こんな時間が増えるのか。やはり、悪くない」
「っ! 調子に乗らないでよ!」
話を最初に戻そう、彼はそう言って私をまっすぐ見据える。
「好きでもないのに他の誰かと付き合ったらどうなるか、ペナルティはないと言ったが……縁そのものは作用しなくても、縁が見えている者たちは何をしているのかと君を見るだろう。君は、どこにどれだけの目があるかを知らないのが幸いなのか、それ故に例え話だろうとそんな面白い……ああいやいや、危ない橋を渡ろうなんて考えが浮かぶのか」
「面白いなんて思ってない」
「君が私を好きじゃなくても、バケモノ達はそんな事知らない。……今更だがな、弘則くんは私たちから見ると不利すぎる。君を救い出そうというなら、君をバケモノの群れの中から助け出さないと……それくらいの覚悟がないといけない」
「……それ、弘則に危険はないんだよね?」
私は彼の事を友人だと思っているよ、何度も繰り返すけどね。……彼はそう答えた。……答えになってない。
「周りのバケモノたちからちょっかいをかけられれば、友人としてやれることくらいはしよう。けれど、常に護るだとかそういうのは期待しないでほしい。銀河も同じく……そうだな、今日の体育祭に例えるなら彼女はただの観戦者であり審判であり、基本的に選手には触れない」
「私は……何かできることはないの?」
「はたから見て、思わせぶりに見える態度をとらないことだ。弘則クンに限って言えば、碧色の縁があるから仲のいい友達程度に遊ぶ分には全く問題ないだろう。つまり――今まで通り何も変わらなければいい」
即答だった。そしてそれは昼休みの時みたいな願望じゃなくて、本当に―……。
そんなの……弘則のためになるの? ……わからないよ。
私から見て、まるで弘則は人質だ。黙って力に屈しろと言われているようなものだ。
ようやく自分の立場を再認識する。基本、私は大人しくしているしかない。弘則を好きじゃないなら、なおさら。好きになるためにデートしてみようかな? とかそんな考えにすらリスクが付きまとう。
「君は自然でいればいい。さっきも言ったように、私の目の届く範囲なら彼の事を護れなくもない。なあ、雛芽……君の事は好きだが、この絶望的な状況の中で運命をひっくり返す――そんなものをもしも、彼が見せてくれるなら」
それは純粋に言葉通りで、煽っているわけでもなんでもなかった。
「そんなのを見せられたら、それはもう文句なしに私は負けたと言わざるを得ないだろ。そうなったら、私は納得するよ」
「……」
私は改めて、弘則にどう接するかという問いを自分に投げかける。
今、なんとも思ってないならできる事なんでないのだ。そう、さっきも自分で気づいたじゃないか。この状況、弘則は人質のようなものなんだって。
窓の外に、体育祭の片付けをする生徒が中庭を移動しているのが見え、ぼーっとしたままそれを眺めているともう一度「君は自然でいればいいんだ」と三栖斗が繰り返した。