婚約者は霧の怪異
バケモノと人間、そして七不思議
先輩が「ここにしましょ」と言って、さっさとのれんを潜る。
見た目は普通の和食店。席に案内されるまでに、他のお客さんが食べている物を見ると、定食や寿司や蕎麦……いろいろな種類があるみたいだった。
その途中で、席に座っていたお客さんの一人が隣を通ろうとした銀河先輩の方へ手を伸ばし「遊び子やん、久しぶり」と声をかけた。
銀河先輩は「わあ! たぬきじゃないの! ホントもういつぶりよ!」と満面の笑みではしゃぎながら彼女と手を合わせる。それを見た店員さんが、ではこちらに。とすぐ隣の席へ案内してくれた。
「そちらは?」
興味ありげにその女の人は私たちを見た。
「今ね、私学校に住み着いてるのよ。そこに居る霧男。……と、その婚約者の橘さん」
「ちょっ」
「へえ、初めまして」
ニコニコと笑顔を向けられ、私はペコリと頭を下げた。
「2人にも紹介するわね。彼女は泣き黒子のたぬき。結構古い付き合いなのよ」
「たぬき……さん、ですか。たぬきってあのタヌキ?」
「せやでぇ。よろしくー」
あんたもなかなか面白い中身しとるなぁ。とたぬきさんは私を見る。
三栖斗たちの言う、バケモノが少し混じってるというアレの事だろう。
店員さんがメニューを3人分持ってきて、開いて見ると価格表記が“円”で安心した。かけそば220円からあって結構リーズナブル。
相談して、3人でそれぞれ鶏、うなぎ、蟹と具の違う釜めしを頼んで食べ比べをしようという事になった。
すぐに食べられる状態の釜めしがドンドンドンと3種机に並べられ、それぞれ好きな具からとっていく。
まずは山菜と鶏肉が入ったお焦げつきのご飯を口に運ぶ。ああ、おいっしい……!
「うう、幸せ……!」
「橘さん美味しそうに食べるよね。蟹も美味しいよ、食べな食べな」
セットでついてきたお味噌汁も、ほとんど透明なのにしっかり味がして美味しい。
あんまり美味しくて黙々と食べていたら、隣で三栖斗が少し笑ったのがわかった。
「何よ?」
「いや、何でもない」
隣の席のたぬきさんが「じゃ、私はそろそろ行くわ。遊び子、またね」と懐中時計を見て席を立つ。銀河先輩が手を振って見送り、食事を続けた。
「それで? 2人は話があって今日会ってるんでしょ? 何の話なの?」
あっ、そうだった。――でも。
「訊きたかった事のひとつは……答えがわかっちゃったんですよね」
「ほうほう? それって?」
銀河先輩が釜の中のお焦げを剥がしながら先を促した。
「どうして三栖斗は私に人間やめてバケモノになれって言うのか。なんで、私がそうならなきゃいけないのかって……理不尽に思ってたんですけど」
今でも強引だなとは思ってるし、やめますなんて言わないけど。
答えは銀河先輩がバスの中で言っていた。それに私に聞く気がなかっただけで三栖斗もいつだったか言っていたかもしれない。
「みんなすごく、長生きなんですね。だから人間のままじゃ、一緒に居られる時間が短すぎるって感じるんですよね」
だって短いじゃない? 銀河先輩が苦笑した。
「好きな人とはなるべく長く一緒に居たいじゃない。人間のペースであっという間に歳をとって置いてきぼりにされちゃったら、私たち寂しいじゃない」
見た目は普通の和食店。席に案内されるまでに、他のお客さんが食べている物を見ると、定食や寿司や蕎麦……いろいろな種類があるみたいだった。
その途中で、席に座っていたお客さんの一人が隣を通ろうとした銀河先輩の方へ手を伸ばし「遊び子やん、久しぶり」と声をかけた。
銀河先輩は「わあ! たぬきじゃないの! ホントもういつぶりよ!」と満面の笑みではしゃぎながら彼女と手を合わせる。それを見た店員さんが、ではこちらに。とすぐ隣の席へ案内してくれた。
「そちらは?」
興味ありげにその女の人は私たちを見た。
「今ね、私学校に住み着いてるのよ。そこに居る霧男。……と、その婚約者の橘さん」
「ちょっ」
「へえ、初めまして」
ニコニコと笑顔を向けられ、私はペコリと頭を下げた。
「2人にも紹介するわね。彼女は泣き黒子のたぬき。結構古い付き合いなのよ」
「たぬき……さん、ですか。たぬきってあのタヌキ?」
「せやでぇ。よろしくー」
あんたもなかなか面白い中身しとるなぁ。とたぬきさんは私を見る。
三栖斗たちの言う、バケモノが少し混じってるというアレの事だろう。
店員さんがメニューを3人分持ってきて、開いて見ると価格表記が“円”で安心した。かけそば220円からあって結構リーズナブル。
相談して、3人でそれぞれ鶏、うなぎ、蟹と具の違う釜めしを頼んで食べ比べをしようという事になった。
すぐに食べられる状態の釜めしがドンドンドンと3種机に並べられ、それぞれ好きな具からとっていく。
まずは山菜と鶏肉が入ったお焦げつきのご飯を口に運ぶ。ああ、おいっしい……!
「うう、幸せ……!」
「橘さん美味しそうに食べるよね。蟹も美味しいよ、食べな食べな」
セットでついてきたお味噌汁も、ほとんど透明なのにしっかり味がして美味しい。
あんまり美味しくて黙々と食べていたら、隣で三栖斗が少し笑ったのがわかった。
「何よ?」
「いや、何でもない」
隣の席のたぬきさんが「じゃ、私はそろそろ行くわ。遊び子、またね」と懐中時計を見て席を立つ。銀河先輩が手を振って見送り、食事を続けた。
「それで? 2人は話があって今日会ってるんでしょ? 何の話なの?」
あっ、そうだった。――でも。
「訊きたかった事のひとつは……答えがわかっちゃったんですよね」
「ほうほう? それって?」
銀河先輩が釜の中のお焦げを剥がしながら先を促した。
「どうして三栖斗は私に人間やめてバケモノになれって言うのか。なんで、私がそうならなきゃいけないのかって……理不尽に思ってたんですけど」
今でも強引だなとは思ってるし、やめますなんて言わないけど。
答えは銀河先輩がバスの中で言っていた。それに私に聞く気がなかっただけで三栖斗もいつだったか言っていたかもしれない。
「みんなすごく、長生きなんですね。だから人間のままじゃ、一緒に居られる時間が短すぎるって感じるんですよね」
だって短いじゃない? 銀河先輩が苦笑した。
「好きな人とはなるべく長く一緒に居たいじゃない。人間のペースであっという間に歳をとって置いてきぼりにされちゃったら、私たち寂しいじゃない」