婚約者は霧の怪異




 話が一段落したので和食店を出て、いろいろな店を覗きながらぶらぶら歩いた。

 ほとんど人間の世界と変わらないけど、たまに猫や狐が言葉をしゃべって店番をしていたりして、私が驚いて固まっているのを「今更でしょ」と先輩に笑われたりもした。


「こちら奥様によくお似合いかと」

「ははは、いえ……その、あははは……」


 そう見られるのはこれで何回目だろう。否定すると説明が面倒くさいという事だけは学習したので、適当に流す。

 銀河先輩は本当に顔が広いようで、行く先々でいろんな人に声を掛けられていた。


「私、疑問なんですけど……どんだけ知り合い多いんですかっ」

「え? ほら、今はあの学校に住んでるけど、あそこができる前は山に住んでたし、その前は小さな村に住んでたし……各地を転々としてるから自然とね。あちこちに知り合いがいるわけよ」


 部活棟七不思議だって、旧図書室のようなあの学校ありきのバケモノに、たまたまあの学校に居座っているモノから何人か足して勝手に七不思議の枠に当てはめただけだと先輩は言う。


「私たちは忘れられれば消えるって言ったけど……図書室のアイツは部屋が本体だから、あの学校がなくなれば一緒に消える。そういうヤツもいるのよ」

「三栖斗は部屋持ってますけど違うんですか?」

「あー……あの部屋はなんて言うかな、ツバメが人の家に巣を作るようなものよね」

「…………」


 三栖斗がものすごく微妙な顔をしたので笑ってしまった。

 いい機会なので七不思議についても訊いてみることにする。


「残り3つの七不思議って何なんですか?」

「オッケー教えちゃおう! なんだか三栖斗じゃなくて引率のはずの私ばかり質問に答えちゃって悪いわねぇ! のほほほほほ」


 なんだかんだで大通りを一往復し、もとのバス停の辺りまで戻って来ていたらしく、バス停のベンチに腰掛けて先輩は5つ目の七不思議について語りだした。


「5つ目は、鍵のかかって入れないはずの屋上から、夜になると女の子の歌う声が聞こえてくるやつね。文化祭の準備なんかで特別遅くまで残っていると聞けるかもしれないわよ?」


 まあ私が勝手にそれっぽいヤツを七不思議認定してるだけで、本人からは拒否されてるんだけどね! と先輩が笑う。この先輩は本当に……。
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