婚約者は霧の怪異
6つ目を話そうという所でバスが目の前に停車した。
来る時は貸し切り状態だったのが、帰りは前方に1人先客が乗っていた。
その後姿をチラッと見て、小さく「あらー」と先輩が声を出す。
来た時と同じように、一番後ろに並んで3人座ると、バスは発車した。
「6つ目は――……」
「待て、続けるのか」
三栖斗が遮る。
「うん、続ける。で、6つ目は開かずの旧生物室。屋上のと似てるけどね。誰もいないはずの生物室の中から物音がするの。そしてその開かないはずの生物室の扉が開いてたら、絶対中に入っちゃいけないんだって話。なんでも~? 人体実験されて二度と帰れないって話だとか~?」
「その辺は先輩が尾ひれ付けましたよね?」
「よくわかったな雛芽」
「うん、なんとなく先輩の事がわかってきた……」
三栖斗の解説によると、使っていない割れ物の備品が山のようにあるから閉鎖されているだけで、先生が使わなくなった物を置きに普通に出入りしているらしい。
じゃあ、実際は何もいないって事? と訊くと、それは違う。と2人は口をそろえる。
「特に誰って限定しては言えないくらいあそこは色々溜まってるわよ。霊的に言うならある意味一番七不思議らしい部屋なんだから」
「用事ができることなどないと思うが、用がないなら近寄らない方がいい。イタズラ好きなヤツもいるからな」
「ええ……? ガチのやつじゃん……」
バスは暗闇の中を進んで随分経ち、もうそろそろ学校に着くかな。と私が思っていると、先輩が若干緊張したように7つ目を語り始めた。
「じゃ、7つ目ね。今家庭科部が使ってる服飾室には準備室があるんだけど、そこにマネキンが置いてあるの。そのマネキンの足元に自分の名前と“縁を切りたい人物”の名前を書いた紙で包んだ断ち切りバサミを置いて、誰にも見つからずに3日経つとハサミがなくなって、その2人の縁が切れる……というおまじないみたいな話よ」
「縁、切り……」
つい、隣に座る三栖斗の顔を見上げてしまう。彼は窓の外を見たまま苦笑していた。
何それ、そんなの。成功さえすれば、私――……
三栖斗が何か言いかけた時、パッと窓の外が明るくなり窓ガラスに雨が当たる。……学校に戻って来たんだ。
校舎裏を減速しながら進み、乗った時と同じ場所でバスは停車した。
プシュー……と乗降口が開く。席を立つと、前方の席に座っていた和服姿の女の人も立ち上がり、切符を渡して先に降りた。
続いて私たちも降りる。校舎に入ると、先に降りた人物が微笑んでそこに立っていた。肌が真っ白で、花飾りで髪を束ねた美しい女性だった。髪は黒、瞳の色はピンクに近い紫色。
後ろで、バスが発車する音がした。
「ごきげんよう、遊び子」
「最近見なかったじゃないの。また出張してたの?」
「ええ、手が足りないから来てくれって」
「ああ~そりゃお疲れ」
ここからは今日何回目かのやりとりだ。先輩が私にその女性を紹介してくれる。
「えー、こちら“縁切り”。ま、さっき紹介したよね」
紹介された女性が丁寧に頭を下げた。
「どうぞ、よろしくお見知りおきを」
「大丈夫、彼女が切れるのは悪縁ーーつまり黒の縁だけだから橘さんは安心していいよ」
「いえ……縁切りさんには申し訳ないですけど、個人的にはむしろちょっと残念です」
私がそう言うと、先輩は大笑いした。「どういうこと?」と縁切りさんが首を傾げる。
「まあまあ、縁切りが留守の間にいろいろ面白い事になってるのよ」
「だから面白くないですってば」
銀河先輩が縁切りさんと腕を組んで上機嫌で廊下を歩いて行く。
私は先輩に文句を言いながら、その後ろを仕方なく三栖斗と並んでついて行った。
来る時は貸し切り状態だったのが、帰りは前方に1人先客が乗っていた。
その後姿をチラッと見て、小さく「あらー」と先輩が声を出す。
来た時と同じように、一番後ろに並んで3人座ると、バスは発車した。
「6つ目は――……」
「待て、続けるのか」
三栖斗が遮る。
「うん、続ける。で、6つ目は開かずの旧生物室。屋上のと似てるけどね。誰もいないはずの生物室の中から物音がするの。そしてその開かないはずの生物室の扉が開いてたら、絶対中に入っちゃいけないんだって話。なんでも~? 人体実験されて二度と帰れないって話だとか~?」
「その辺は先輩が尾ひれ付けましたよね?」
「よくわかったな雛芽」
「うん、なんとなく先輩の事がわかってきた……」
三栖斗の解説によると、使っていない割れ物の備品が山のようにあるから閉鎖されているだけで、先生が使わなくなった物を置きに普通に出入りしているらしい。
じゃあ、実際は何もいないって事? と訊くと、それは違う。と2人は口をそろえる。
「特に誰って限定しては言えないくらいあそこは色々溜まってるわよ。霊的に言うならある意味一番七不思議らしい部屋なんだから」
「用事ができることなどないと思うが、用がないなら近寄らない方がいい。イタズラ好きなヤツもいるからな」
「ええ……? ガチのやつじゃん……」
バスは暗闇の中を進んで随分経ち、もうそろそろ学校に着くかな。と私が思っていると、先輩が若干緊張したように7つ目を語り始めた。
「じゃ、7つ目ね。今家庭科部が使ってる服飾室には準備室があるんだけど、そこにマネキンが置いてあるの。そのマネキンの足元に自分の名前と“縁を切りたい人物”の名前を書いた紙で包んだ断ち切りバサミを置いて、誰にも見つからずに3日経つとハサミがなくなって、その2人の縁が切れる……というおまじないみたいな話よ」
「縁、切り……」
つい、隣に座る三栖斗の顔を見上げてしまう。彼は窓の外を見たまま苦笑していた。
何それ、そんなの。成功さえすれば、私――……
三栖斗が何か言いかけた時、パッと窓の外が明るくなり窓ガラスに雨が当たる。……学校に戻って来たんだ。
校舎裏を減速しながら進み、乗った時と同じ場所でバスは停車した。
プシュー……と乗降口が開く。席を立つと、前方の席に座っていた和服姿の女の人も立ち上がり、切符を渡して先に降りた。
続いて私たちも降りる。校舎に入ると、先に降りた人物が微笑んでそこに立っていた。肌が真っ白で、花飾りで髪を束ねた美しい女性だった。髪は黒、瞳の色はピンクに近い紫色。
後ろで、バスが発車する音がした。
「ごきげんよう、遊び子」
「最近見なかったじゃないの。また出張してたの?」
「ええ、手が足りないから来てくれって」
「ああ~そりゃお疲れ」
ここからは今日何回目かのやりとりだ。先輩が私にその女性を紹介してくれる。
「えー、こちら“縁切り”。ま、さっき紹介したよね」
紹介された女性が丁寧に頭を下げた。
「どうぞ、よろしくお見知りおきを」
「大丈夫、彼女が切れるのは悪縁ーーつまり黒の縁だけだから橘さんは安心していいよ」
「いえ……縁切りさんには申し訳ないですけど、個人的にはむしろちょっと残念です」
私がそう言うと、先輩は大笑いした。「どういうこと?」と縁切りさんが首を傾げる。
「まあまあ、縁切りが留守の間にいろいろ面白い事になってるのよ」
「だから面白くないですってば」
銀河先輩が縁切りさんと腕を組んで上機嫌で廊下を歩いて行く。
私は先輩に文句を言いながら、その後ろを仕方なく三栖斗と並んでついて行った。