婚約者は霧の怪異




「へえ、弘則くんがね」


 部活が終わり、家に帰ると母が餃子を包んでいたので、一緒に手伝いながら話をした。


「メッセージも送ったけど既読にならないんだよね。大丈夫かな」

「もしかしたら具合が悪くて寝ているのかもよ。そっとしておいてあげなさい」

「うん……」


 手伝いを終えて手を洗い、お茶を飲もうと冷蔵庫を開けるとそこに近所のケーキ屋さんの箱が入っていた。


「お母さんこれ何?」

「ああ、なんか急にプリンが食べたくなってね。そこのプリン美味しいからデザートに買ってきたの」

「やったっ」


 その時、玄関のドアが開く音がして、父が帰ってきた。


「ただいまぁ」

「おかえりー」

「おかえり……あっ」

 私は父が手に持っている箱を指さす。今さっき冷蔵庫で見たものと全く同じだったのだ。


「お父さん、それ……何?」


 母も気が付いて、恐る恐る訊ねる。


「これ? 今日疲れて甘いものが食べたくなってさ、そこでプリン買ってきたんだけど」


 たまらず私が吹き出し、母も笑いだす。

 わけもわからず頭の上にハテナマークを浮かべている父に、理由を説明すると父も笑った。


「どうするんだよ賞味期限当日だぞ」

「2個ずつ食べる? 私いけるよ」

「あんたは最近食べ過ぎ。冷蔵庫に入ってるやつを後で弘則くんに持って行ってあげたら?」


 ウチでは家族の誰かが風邪を引くと食欲がなくなる事が多いので、食べやすくて栄養もあるプリンを買って来る。


「うん。そうだね。そうする」

「弘則くんどうかしたのか?」

「風邪引いたっぽいんだって」


 母がそう言いながら餃子を焼く。

 スマホをもう一度確認してみても、既読はついていなかった。

 寝ているならプリンだけおばさんに渡して帰って来よう。
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