婚約者は霧の怪異
「今日初めてやるゲームです。でも、ルールは把握しました。ギミック、トラップ構成と情報撹乱……は自信があります。負けません」
そう言って小城さんを見る。
ほらぁ、ライバル心むき出しだもん……!
「あはは、どうぞお手柔らかに」
そうふんわり微笑む小城さんも容赦するつもりはないだろう。
上級生相手にもエグい技を仕掛けるのだ。あと頭の回転が早くて勘も鋭い。何度も挑戦したけど、こっちの手札が読まれてるかのよう。
こちらが仕掛けた罠は踏まない。または後々の大きな罠に引きずり込むためにあえて小さな罠くらいは踏んで見せる。ウチの部では負けなしなのだ。
「なんかあっちの卓やべー戦い始まったな」
羽野川くんもゲームを終え、片付けを始めたので私は残りの人たちを机へ案内する。
本当はそのまま羽野川くんも弘則も自由時間になるはずだったんだけど、あっちの対戦の観戦に加わっている。……お昼時の当番を任されてたはずなんだけどお腹空かないのかな。
……おっと。私は私の担当するテーブルに集中しないと。
◇
「お疲れ様でした!もし他のゲームも興味があったらアナログゲーム部の部室にいつでもどうぞ!」
「はあーっ!最後の最後で実咲にやられたー!」
「楽しかった~」
和気あいあいとした雰囲気でゲームが終わり、私は次のグループを案内しながら向こうのテーブルの様子を見る。
あちらもプレイヤー達が椅子を立ったのを見ると、どうやら終わったみたい。観戦していた弘則が腕を組んで難しい顔をしながらこっちへ歩いて来る。
「どうだったの?」
「……どう説明したらいいんだろ……。何重にも罠が仕掛けられててすごいことになってた……。運もあるけど、小城さんの本気の本気って怖い……」
「あ、やっぱり小城さんが勝った?」
「ああ、ううん。得点ではあの中学生くらいの男の子が勝った。あの子もすごかったよ」
弘則の後を「えへへ」と笑いながら小城さんがやって来る。
「先輩、負けました」
「小城さんが負けるなんてあの子すごいね」
「そうなんですよ! 裏の裏の裏を読まれちゃう感じで、ハッタリも全然通じないですし、罠に引っ掛けてるはずがこっちが引っかかっちゃいまして」
小城さんは時折見せるあのキラッキラした瞳でこぶしを握る。
負けたのにものすごく嬉しそうだね、と弘則が笑うと「だってあんな綺麗な技なかなかできないよ!」と彼女はさらに興奮した。
男の子が小城さんの少し後ろで 、じーっと彼女を見上げている。それに気付き、小城さんが振り向いて握手を求めた。
「完敗です! ぜひまたリベンジを……と言いたいところだけど、同じ学校じゃないのが残念です」
「やっと勝てたのは僕の方。……また、きっと“別の機会”に勝負しよう」
「? はい」
男の子は小城さんの右手をしっかりと握り返し、教室を出ていった。
そう言って小城さんを見る。
ほらぁ、ライバル心むき出しだもん……!
「あはは、どうぞお手柔らかに」
そうふんわり微笑む小城さんも容赦するつもりはないだろう。
上級生相手にもエグい技を仕掛けるのだ。あと頭の回転が早くて勘も鋭い。何度も挑戦したけど、こっちの手札が読まれてるかのよう。
こちらが仕掛けた罠は踏まない。または後々の大きな罠に引きずり込むためにあえて小さな罠くらいは踏んで見せる。ウチの部では負けなしなのだ。
「なんかあっちの卓やべー戦い始まったな」
羽野川くんもゲームを終え、片付けを始めたので私は残りの人たちを机へ案内する。
本当はそのまま羽野川くんも弘則も自由時間になるはずだったんだけど、あっちの対戦の観戦に加わっている。……お昼時の当番を任されてたはずなんだけどお腹空かないのかな。
……おっと。私は私の担当するテーブルに集中しないと。
◇
「お疲れ様でした!もし他のゲームも興味があったらアナログゲーム部の部室にいつでもどうぞ!」
「はあーっ!最後の最後で実咲にやられたー!」
「楽しかった~」
和気あいあいとした雰囲気でゲームが終わり、私は次のグループを案内しながら向こうのテーブルの様子を見る。
あちらもプレイヤー達が椅子を立ったのを見ると、どうやら終わったみたい。観戦していた弘則が腕を組んで難しい顔をしながらこっちへ歩いて来る。
「どうだったの?」
「……どう説明したらいいんだろ……。何重にも罠が仕掛けられててすごいことになってた……。運もあるけど、小城さんの本気の本気って怖い……」
「あ、やっぱり小城さんが勝った?」
「ああ、ううん。得点ではあの中学生くらいの男の子が勝った。あの子もすごかったよ」
弘則の後を「えへへ」と笑いながら小城さんがやって来る。
「先輩、負けました」
「小城さんが負けるなんてあの子すごいね」
「そうなんですよ! 裏の裏の裏を読まれちゃう感じで、ハッタリも全然通じないですし、罠に引っ掛けてるはずがこっちが引っかかっちゃいまして」
小城さんは時折見せるあのキラッキラした瞳でこぶしを握る。
負けたのにものすごく嬉しそうだね、と弘則が笑うと「だってあんな綺麗な技なかなかできないよ!」と彼女はさらに興奮した。
男の子が小城さんの少し後ろで 、じーっと彼女を見上げている。それに気付き、小城さんが振り向いて握手を求めた。
「完敗です! ぜひまたリベンジを……と言いたいところだけど、同じ学校じゃないのが残念です」
「やっと勝てたのは僕の方。……また、きっと“別の機会”に勝負しよう」
「? はい」
男の子は小城さんの右手をしっかりと握り返し、教室を出ていった。