婚約者は霧の怪異
「3年の幽霊部員の話になったらはぐらかせばいいんだね」

「そゆことー」


 同じ内容を弘則に送信する。

 すぐに既読がつき『銀河先輩、そうするって言ってたからね。心の準備だけしっかりしておくよ』と返信が来た。それを確認して私はスマホをしまい、お弁当を取り出す。


「話しておきたい事はそれで全部か」


 いつの間にか和服姿になっている三栖斗がいつも通りの弁当箱を机の上に置く。一応生徒の姿になっているだけでも常に力を使い続けているとかで、もうそれすら億劫になるほど疲れてしまっているみたいだった。

 銀河も大きな弁当箱を広げるが、それは弁当屋さんの宅配のものだった。


「いんやぁ? 部活とは無関係だけどね、まだあるよ。あ、雛芽そのひとくち豆腐ハンバーグと何か交換しない?」

「えー、じゃあそのチキン南蛮一切れなら」

「よっし交渉成立」

「……君たち」


 ジトーと私たちのやりとりを睨む三栖斗に、銀河は「しょうがないなあ」と言ってハンバーグを口に入れる。


「雛芽、ダメだよ。おじいさんの事、あんな場所で喋っちゃ」

「っ!?」


 にっこりと銀河は笑ってそう言った。


「生徒は通りすがりの君たちの会話に興味がなくても、君が見えないモノ達は珍しい血の君に興味を示す者もいる。三栖斗みたいにね」

「何の話だ」


 通りすがり、という事は文化祭の時の事だ。

 私の考えを読み取ったのか、銀河が「縁切りは図書室に見える者も見えない者も含めて全て侵入を許さなかったよ」と補足した。


「俺の知り合いがたまたま君の話に耳を傾けてたらしいんだよ」

「……銀河は公平な立場だから三栖斗の有利になる事はしないんだよね?」


 うーん、と銀河がニヤニヤしながら首を傾げた。


「雛芽の記憶を持っている可能性が高い人物がわかったところで、話を聞く限り三栖斗が説得できる人だとも思えないけど? つまり大して不利になることはないんじゃない?」

「銀河……君、いや……君たち、誰だかわかったのか」


 変な伝わり方するより、自分で話した方がいいんじゃない? と銀河が私に促す。

 ……確かに、祖父が三栖斗に見つかったとしても私の記憶を出してくるとは思えない。それに、祖父と祖母の話は出会った時に三栖斗が欲していた話なんだ。

 気が済んだら、私への興味も薄れていくかも……いや、それはないか。


「わかった、じゃあ……話す」


 私は観念して弘則に話したように祖父の話を三栖斗にしていく。彼は人間と妖怪が結ばれた話にわかりやすく興味を示し、話に聞き入っていた。
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