婚約者は霧の怪異
可愛くない
「お疲れ様でーす」
部室で2年生4人が同じ冊子を開きながら話をしていると、小城さんが入ってきた。
その拍子に書かれたタイトルを見て「あ、2年生はもう修学旅行ですか」と彼女も私たちの輪に加わる。
「どこへ行くんですか?」
「京都、滋賀、三重」
羽野川くんが、修学旅行のしおりを広げて小城さんに渡した。小城さんは日程を指でなぞりながら「へええ」と興味津々にしおりを読んでいる。
「2年でお土産買ってくるけどさ、どこのお土産がいい?」
「えっ? いいんですか?」
「みんなそのつもりだよ。俺も去年ツグさんに貰ったし」
小城さんはしばらく悩んだ後「決められないので先輩方にお任せします」と言ってしおりを羽野川くんに返した。
そこへ弘則も入って来て、小城さんの隣に座って会話に参加した。座る前にチラリと銀河を見る。当たり前のようにそこに座ってるけど、銀河が“篠森銀河”としてここで活動するのは今日が初めてなのだ。
「……ええと、部員4人で自由行動するんですか?」
弘則の問いに「まっさかあ」と羽野川くんが答える。
「お土産の事もあるから篠森とはちょっと一緒にまわるけど、俺は俺で基本はクラスのヤツとまわるし」
「そうなんですか」
銀河と羽野川くんは弘則の好きなものをよくわかっているから2人でお金を出し合って弘則の分のお土産を買ってくるという事に決まった。つまり消去法で私と三栖斗のペアで小城さんのお土産を選ぶという事になる。
……それなら私と三栖斗が一緒に散策する場所でしかお土産を買えないから、京都滋賀三重の中から小城さんに選んでもらうまでもなく買う場所は限られてくるんじゃないかって?
残念ながら変に気が利く私の友人たちによって、私は修学旅行中ほとんどこいつと一緒に行動する事になってしまった。
私が「それはあんまりだ」と泣きついて、滋賀では怜音たちとも遊べることにはなったけど!
……でも、ふと思う。前の私だったら、それでも三栖斗と一緒に行動するなんて嫌で……こんなスケジュールで「まったくもう」なんて妥協なんかしない。
諦めなんだろうなと思っていた。どうせ抵抗したって無駄だって。
なら、どこを散策するか前向きに考えた方が嫌な気分にならないだろうからそうしようって。
きっとこんなに落ち着いているのはそういう理由なんだと私は思っていた。
けど、そもそも嫌なのは“怜音たちとの時間が少ない事”でしかない自分にも気付いていた。
認めれば自分で自分を嫌な気分にしなくていいのだ。
――……三栖斗と一緒に行動する事は、別にもうそこまで……。
そこで自分に笑ってしまう。
ほら、また素直じゃない。
じゃ、訂正しよっか。
三栖斗と一緒に行動するのは、それはそれで少しだけ楽しみでもあるんだ。
……って。
部室で2年生4人が同じ冊子を開きながら話をしていると、小城さんが入ってきた。
その拍子に書かれたタイトルを見て「あ、2年生はもう修学旅行ですか」と彼女も私たちの輪に加わる。
「どこへ行くんですか?」
「京都、滋賀、三重」
羽野川くんが、修学旅行のしおりを広げて小城さんに渡した。小城さんは日程を指でなぞりながら「へええ」と興味津々にしおりを読んでいる。
「2年でお土産買ってくるけどさ、どこのお土産がいい?」
「えっ? いいんですか?」
「みんなそのつもりだよ。俺も去年ツグさんに貰ったし」
小城さんはしばらく悩んだ後「決められないので先輩方にお任せします」と言ってしおりを羽野川くんに返した。
そこへ弘則も入って来て、小城さんの隣に座って会話に参加した。座る前にチラリと銀河を見る。当たり前のようにそこに座ってるけど、銀河が“篠森銀河”としてここで活動するのは今日が初めてなのだ。
「……ええと、部員4人で自由行動するんですか?」
弘則の問いに「まっさかあ」と羽野川くんが答える。
「お土産の事もあるから篠森とはちょっと一緒にまわるけど、俺は俺で基本はクラスのヤツとまわるし」
「そうなんですか」
銀河と羽野川くんは弘則の好きなものをよくわかっているから2人でお金を出し合って弘則の分のお土産を買ってくるという事に決まった。つまり消去法で私と三栖斗のペアで小城さんのお土産を選ぶという事になる。
……それなら私と三栖斗が一緒に散策する場所でしかお土産を買えないから、京都滋賀三重の中から小城さんに選んでもらうまでもなく買う場所は限られてくるんじゃないかって?
残念ながら変に気が利く私の友人たちによって、私は修学旅行中ほとんどこいつと一緒に行動する事になってしまった。
私が「それはあんまりだ」と泣きついて、滋賀では怜音たちとも遊べることにはなったけど!
……でも、ふと思う。前の私だったら、それでも三栖斗と一緒に行動するなんて嫌で……こんなスケジュールで「まったくもう」なんて妥協なんかしない。
諦めなんだろうなと思っていた。どうせ抵抗したって無駄だって。
なら、どこを散策するか前向きに考えた方が嫌な気分にならないだろうからそうしようって。
きっとこんなに落ち着いているのはそういう理由なんだと私は思っていた。
けど、そもそも嫌なのは“怜音たちとの時間が少ない事”でしかない自分にも気付いていた。
認めれば自分で自分を嫌な気分にしなくていいのだ。
――……三栖斗と一緒に行動する事は、別にもうそこまで……。
そこで自分に笑ってしまう。
ほら、また素直じゃない。
じゃ、訂正しよっか。
三栖斗と一緒に行動するのは、それはそれで少しだけ楽しみでもあるんだ。
……って。