婚約者は霧の怪異
 晴香が「怜音はそうだと思った」と頷いた。


「えええっ!?」


 思わず声が裏返る。


「雛芽は三栖斗くんを見慣れてるからあのイケメンオーラ浴びても平気なんだよぉ! イケメンで、一緒にいると楽しくて話もバッチリ合わせてくれてって最高じゃない?」


 ぎ、銀河……どうするのよこの状況。私はなんて言えばいいのよ……。


「ねえ雛芽、銀河くんって彼女いるの? 仲良いでしょ?」

「あ、いや……彼女はいないけど……なんていうかあの、そもそも恋愛に興味ないって言ってた……気が」


 そう言っているのに「よしっ」と怜音がガッツポーズをする。あ、だめだコレ。これ以上は説得できない。


「それはまだ恋を知らないだけ! ならチャンスはある!」


 ……というのが怜音の考えらしい。ふと、三栖斗の事を思い浮かべ、確かにチャンスがゼロというわけではないか……と自分に言い聞かせた。







 次の日はお城見学とその周りのお店を散策し、そこで両親にリクエストされていた焼き菓子を買った。昼食も自由だったので、女子3人でお昼からがっつりハンバーグランチを食べた。

 そこから更にバスで移動し、京都へ向かう。

 祇園の近くのホテルに荷物を置き、ホテルの外に集まって先生の注意を聞いてから解散する。決められた時間までは夕食を含め自由散策となっていた。


「小城さんのお土産、今日のうちに買いたいよね」

「そうだな」


 弘則にも何かいいものがあったら買っていこう。

 人で溢れる四条通りを、お店を覗きながらゆっくり進んでいく。和雑貨がどれもかわいいし、瓶に入った飴玉や金平糖もかわいい。

 ああもう迷うなあと思いながら歩いていると、私たちの向かう方向から歩いて来る女の人が「あれあれ?」と言いながら私たちをまっすぐ見ているのに気が付いた。

 この辺りは和服で歩いている人たちを結構見かけるんだけど、彼女もその1人。橙色の和服に束ねた黒髪、そして泣き黒子(ぼくろ)。なんとなく見覚えのある人物だった。


「あんたたち、遊び子の知り合いの」

「……あっ!? えっと、泣き黒子のたぬき、さん?」

「せやで! 覚えててくれて嬉しいわ。……え? なんで京都に居んの? ていうかなんでそんな格好してんの?」


 学生服の事らしい。


「実は学生として生活していて」


 三栖斗が普通に説明した。「まあそういう事もあるか」というようにたぬきさんはふうんと頷く。


「ま、言うて私も京都に住んでるわけと違うけど。いやあ偶然! ところで遊び子ももしかして一緒なん?」

「あ、銀……遊び子は別の生徒と一緒に新京極あたりに行くって言ってました」

「新京極か。ありがとう、折角やから挨拶しに行くわ」

「遊び子も今は学生に化けているぞ」


 あはは、と手を振ってたぬきさんが笑う。


「化けることに関しては私、あいつといい勝負やと思ってるんやけどなぁ。ここはいろんなモンで溢れてるけど、姿見ればわかるって」


 ま、あんたたち2人と同じ制服目印にして探してみるわ。と言って、たぬきさんは来た道を引き返していった。
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