シークレットシープ





「深沢、君……」


私が名前を呼んでも、彼は返事なんてしない。

無言で、さっき私が持ち上げようとしていた段ボールをもうひとつの段ボールの上に重ねて2つ一気に持ち上げる。



「えっ、ちょっ……私も持つ!!」


「うるせぇ。さっさと教室戻るぞ」


「うるせぇって……私が頼まれたことだから、きちんと私も仕事したいの……!!」



そう言うけど、深沢君は完全無視。
スタスタとひとり歩きだしてしまう。



「ちょっと待って……!!」


「しつこい」


「分かりやすく傷つく言葉使うのやめてって去年からずっと言ってるよね!?」


「お前は小学校の先生かよ」


そんなやりとりをする私たちをすっと追い抜いていく担任の先生。
追い抜きざまに、


「仲が良いのは結構だけど、1限目に遅れないようにしろよー」


そう言って苦笑した。



「ほら、黙ってついてこいよ。……梨良」



……君の声で名前を呼ばれたら。
私は従うしかなくなってしまう。



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