シークレットシープ



トトトッと救世主のもとに駆けよると、彼はいつもとなんら変わらない穏やかな笑みを見せる。


「少し離れたところから様子見してないで、あの子たちに声かければよかったのに」


どうやら彼は、私が女の子たちの死角になる靴箱の影でどうしようかと悩んでいたことに、気が付いていたらしい。


声かければよかったって、簡単に言うけど……。



「私が声かけたら、絶対きまずくなってたよ。空気読めよって思われてた」


「女子ってすぐ空気読みたがるよね。大体、本人がいないところで他人の話する意味が分からない」



表情を変えず笑顔のまま、ほんの少し毒を混ぜた言葉を吐く彼。
彼の名前は、笹野拓也。

高校2年生になった今年度、同じクラスになった人。


たれ目で、笑ったらえくぼができて。
優しく親切で、勉強スポーツオールマイティなモテ男。
そして皆に頼られる学級委員。

女の子たちの間でそう言われている。



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