シークレットシープ
明らかにおかしい。
彼の暴君全盛期には結構あった行動だけど。
でも去年の夏頃からは落ち着いていたはず。
それなのにこんな粗暴行為をしてるということは……。
「……深沢君、顔を上げて」
そう言うと、深沢君はゆっくりと顔を上げた。
つり上がった目尻に、眉間に寄った皺。
それで察してしまった。
「……あいつが、マリカが家にいる」
低く暗い声で言われたその言葉に、私は内心大きなため息をついた。
もうさ、そんな情緒乱れるくらいならおうちの鍵とっかえて、彼女が入れなくしてしまえばいいんじゃないかな。
「……よし、じゃあ放課後にコップ買うの付き合ってほしい。昨日割れちゃったんだ、お気に入りのコップ」
「…………」
無言でうなずいた彼は、表情に似合わず、とても弱々しく見えた。
今日一番乗りで学校に着こうと思っていた私より早く登校しているんだもの。
きっと、おうちにいたくないんだよね。
それなら私が連れ出してあげる。