シークレットシープ



店の奥にあるお手洗いを借りて、外に出ると。


「あれ」


店内に深沢君の姿がない。
……今、このお店には女性客しかいないから、気まずくなって出て行ったのかな。

一旦お店の外に出てみよう。


そう思って店をでると。
やっぱり深沢君の姿は店の外にあった。

雑貨屋さんのちょうど真向かいにあるペットショップにいる、まだ小さな柴犬を見つめる後ろ姿を発見。


驚かせてみたくて、ゆっくりゆっくり近づいて、両肩に手を伸ばしてポンッと軽く叩くと。


「……こいつ、神奈川生まれだって」


彼は特に驚きもせず、誕生日や生まれた場所が描かれているプレートを指さしただけだった。

……なんか残念。



「……神奈川かぁ。中華街があるね。あそこの焼き栗美味しいんだよ」


すこししょんぼりしながらそう言葉を返すと、なぜか彼はあきれ顔。


「食べ物に結び付けるとか……食い意地はってんな、お前」


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