シークレットシープ
先生がそうつぶやいて、黒ボールペンを握った、その瞬間。
ガラッと教室の後ろのドアが開いた。
そこから、クラスメイトから浴びせられる視線を気にすることなくまっすぐ前を向いて自分の席に向かう男子。
彼は私の隣の空席に座り、茶髪をかき上げる。
その時、キラリと左耳につけられている藍色のピアスが輝いた。
「深沢ー、ギリギリに登校するのやめろよー」
「……ちゃんと来たんだからいーじゃん」
「お前なぁ、ちょっとは急げ!!頑張れ!!」
「終わりよければすべて良いだろ、間に合ってるからいーんだよ」
先生とそんなやりとりをする彼だけど。
私はしっかり気付いている。
彼の額に、じんわりと汗がにじんでいることに。
先生とのやりとりに飽きたのか、頬杖をついてくぁっと大きなあくびをひとつ。
あくびのせいか、目にうっすらと涙をにじませた彼の名前は深沢雅玖。
この、2年1組でいちばんの問題児。
……私がはじめて彼と出会った去年の春よりは十分落ち着いてるけど。