ねぇヒーロー、名前を呼んで
始まり


高校2年生の春


父の仕事の都合で都会からこの田舎の高校に転校してきた


今日は始業式


クラス替えやなんやらでワイワイしているクラスの中に1人で入らなければならないと考えると吐き気がする


私は人が嫌いだ


一人で生きていたい


みんな恋愛や勉強や部活に夢中になる中私は何にも興味が持てなかった


世界が灰色に見えた


だから別にこの転校の事なんとも思っていない


でも、人に注目されるのは少し苦手だから憂鬱


2年5組の教室の前に立つ


今日から私はこの教室で生活を始めるんだ


ガラッッ


ドアが開いた


ドアの先には30代前半の黒縁メガネで優しそうな男の先生が微笑んでいた


担任の橘先生だ


「塩崎さん、中に入ってきてください。」


先生に言われたとおりに教室に入り教卓の前まで1歩ずつゆっくり歩いていく


クラスはザワザワし始めていた


「はぁい!うるさいよ!今日から君たちと一緒に過ごす塩崎柚宇さんだ!」


黒板に私の名前を書き終わった橘先生が叫ぶとクラスのざわめきも静まった


視線が一気に私の方へ向く


「一言言ってもらってもいいかな?」


私は頷いた

「はい。父の仕事の都合で転校してきました。塩崎柚宇です。よろしくお願いします。」


きっとクラスのみんなハズレだと思っているだろう


みんな転校生といえば明るくて美少女ですぐみんなの輪の中に入れるような子を想像するはずだ


でも私はその逆


挨拶してもニコリとも笑いもせず無表情のまんま


クラスの雰囲気も少し変わり始めていた


ヒソヒソと話し声が聞こえる


「なんか、めっちゃ無愛想じゃない?」


「もっと可愛い子を期待してたわ〜」


こんなのもう言われ慣れているからなんとも思わない


けど、さすがにこんなにピリピリし始めてしまうと心にくるものがある


その空気を壊すように橘先生が口を開いた


「塩崎さんはあそこの席だよ」


先生が指を指した場所は1番後ろの一番端


良かった


人目を気にしないで過ごしていけそう


「はい」


ジロジロと視線を感じながら自分の席に座る


クラスにはチラチラとこちらを見る子や、気にせず前を向いてる子、興味をなさそうに寝ている子もいる


今日から私はここで過ごしていくのか


きっと友達もまともに出来ずに1人ですごして卒業していくんだろうなあ


でも、その想像を覆すできごとがおきることをこの時の私はまだ知らない
















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